リールの教会の聖人たち まとめ

kiyonobumie2005-09-04

さてそんなわけで夏の課題として聖人を調べつつ、リールの教会を順番に回ってみたのだが、やっぱり現代の教会のあり方というのは、宗教改革の波もあり、革命の波にももまれて、しかも国家としてのフランスは徹底した政教分離、つまりダンナ様専門の「ライシテ」を共和国原理と掲げるのであるから、そこで奉られているものが実はフランス主義?あるいはプロテスタントに対抗する形のカトリシズム礼賛なのか?と思えるような節もありながら、儀礼の場所としてはそれなりにプリミティブな形式を残しつつ、役割を果しているし、敬虔な信者もたくさんいる、という矛盾するような、わかったようなわかんないような、結論に落ち着くことになった。さて、お勉強したのでレポート提出。間違ってる部分、極端な物言いあったらごめんなさい。

教会の聖人たち―現在の扱われ方
教会に置かれているパンフレットには建築史的な説明や作者の紹介が多く、信仰面、風俗面から見た教会の歴史や役割というものがあまり書かれていない。教会の名前の由来となっている聖人が大きく奉られているかというとそうでもなく、その人物であることがわかる彫像などが置かれていたりするだけのこともある。聖人伝説はカトリック共有のもので、あくまで象徴的な意味合いが大きいと思われる。

  • 奉られている聖人の特徴1   聖書の登場人物で、(おそらく)フランス・カトリックが特に重要視する使徒、聖人

 ex. 聖ヨセフ、聖ヨハネ福音書家)、聖ペテロと聖パウロ、聖マリア(マグダラのマリア)、大天使ミカエル

  • 奉られている聖人の特徴2   フランスの守護聖人的な人物

 ex. 聖マルチノ(マルタン)、ジャンヌ・ダルク、聖ルイ(ルイ9世

  • 奉られている聖人の特徴3   近・現代におけるフランス・カトリックでの伝説的人物

 ex. 聖ベルナデッタあるいはルルドの聖母、アルスの司祭ジャン・マリー・ヴィアンネ、幼子イエスの聖テレーズ、サクレ・クール(聖心)信仰を広めた聖マルグリット・マリーなど。

例1:ノートルダム・ドゥ・ラ・トレイユ
祭壇の後ろに5つのシャペル(副祭壇、小礼拝堂)があり、それぞれ、ジャンヌ・ダルク(フランスの歴史の象徴)、聖ヨハネ(真実の象徴)、リールの聖人、聖アンヌ(家族の象徴)、聖シャルル善良公(フランドル公)が奉られている。特徴的なのはジャンヌ・ダルクの祭壇で、後ろの壁画には、フランスの歴史を象徴する男性6人、女性6人が描かれている。男性はガリアで最初の修道院を作った聖マルタン(マルチノ)、クローヴィス、シャルルマーニュ、カペー公、教会を保護し、中世の国王の見本とされる聖ルイ(ルイ9世)、ルイ16世の6人。女性はパリの守護聖人聖ジュヌヴィエーヴ、ユーグ・カペーの娘、聖オーレリーなど。
他に聖像が置かれていたのは、聖ペテロ(鍵を持っている)、アルスの司祭聖ジャン・マリー・ヴィアンネなど。
ノートルダム・ドゥ・ラ・トレイユという聖堂は、古くからこの地に伝わる聖母のバシリスクを奉るために、19世紀後半に建てられた。革命の前後でこのバシリスクを守っていた聖ピエール教会堂(?)が壊され、その後も長い年月かかって教会自体がやっと建てられたという背景がある。
*聖マルチノ ローマの軍人だったがキリスト教に出会い、退役してガリアで最初の修道院を開いた。トゥールの司教に任命され、その後の修道士の手本とされた。

この教会のファサードは、1999年に当初の計画より幾分簡素化されて、ようやく完成した。

例2:サクレ・クール
ブルゴーニュに生まれ、17世紀にサクレ・クール信仰を広めた聖マルグリット・マリーの像、サクレ・クール像(イエス像)が両側にある他、近・現代の聖人像が、古い聖人像に混ざっていくつか置かれていた。例えば、13世紀にヨーロッパで宣教し、アフリカにも渡ったパドバの聖アントワーヌ、ルルドの聖母のお告げを伝えた聖ベルナデッタ(19世紀)、カルメル会の修道女で、『幼いイエズスの聖テレーズの手紙』『自叙伝』で知られる聖テレーズ(19世紀)、アルスの司祭で、小さな村を信仰あふれる村に変え、近代の司祭の手本とされる聖ジャン・マリー・ヴィアンネ(19世紀)など。

写真は教会の奥に左右5つずつ配置されているステンドグラス。この各5枚はそれぞれ、4枚目までは聖書の物語を図像化したものだが、5枚目は急に「モンマルトルでキリストにバシリスクを捧げるフランス」「サクレ・クールに誓いを捧げるリール」など、一気にフランスネタ、地域ネタになるのが面白い。

例3:聖カタリナ教会
15世紀から16世紀にかけて建設された比較的古い教会だが、外観の一部以外には、あまりその名残は残っていない。入口に、やや新しい聖ルイと聖モーリスの像が両側に置かれている。同じく聖ヨセフ像も。かつてこの教会の主祭壇にはルーベンスによって描かれた聖カタリナの殉教が奉ってあったそうだが、現在では美術館に置かれている。聖カタリナの像は柱の上のほうにちょこんと置かれていたのみ。両側に奉られていたのは、主祭壇の左側にルルドの聖母、右側にサクレ・クール像。どちらも19世紀に作られた。

*聖ヨセフ 聖母マリアの夫で、イエスの養父。マリアとイエスの二人を守った人物として、教会の特別な保護者とされる。

*聖モーリス 3世紀末から4世紀にかけて、ガリアの軍人だったが信仰のためにローマ皇帝に迫害され、兵隊と共にスイスで殉死した。確かにローマの軍人さんの格好してます。聖モーリスの伝説をガリアに伝えたのは聖マルタンだ、と聖モーリス教会のおじさんが話してました。

聖カタリナ教会のルルド聖母像。19世紀の像はどこもこんな感じですねー。まあきれいですが、霊験あらたかって感じじゃありません。

感想 聖人伝説や彫像は、キリスト教における神聖な「物語」を喚起させる役割があれば十分なのかもしれず、本当に精神性にあふれていたり、神秘的だったりする像や作品にはあまり出会わなかった。例えば20世紀に入ってから美術館などに持っていかれてしまったりしているのかもしれない。とはいえ、どの教会でも日曜のミサはそれなりに多くの人が集まり、活気があるので、場所としての教会の機能は生きていると言えるだろう。(ふ)