夏の課題・聖人をたずねて

sainte-catherine

7月の半ば頃、お互いに夏休みの自由研究をしよう、という話になった。何をしようかな、あれも面白そうだしこれも面白そうだと悩んだまま、8月もあっという間に過ぎ、結局例によって私は夏休みの最終週に入ってやっとテーマを限定して、ようやく手を付け始めた。お互いに興味の持てる主題にしようと思ったので、私も宗教学で学んだ端くれとして、カトリック、特にフランスで大切にされる聖人の話のことを調べることにした。
さて調べるとなっても聖人はたくさんいるし、足がかりをどうしようかと思っていたが、リールの教会から始めたら、とダンナさんのアドバイスもあって、お散歩・地域散策も兼ねてまずは教会を回りつつ、名前に冠されている聖人のことを調べはじめた。するとわんさか出てくる。Googleで検索して一番初めに発見したのはアメリカのカトリック関係者が作ったらしい聖人情報のサイトだったが、それによればなんと聖人は5000人以上もいるとのこと。さすがキリスト教2000年の歴史。調べていたらきりが無い。さてカトリックでは一年の365日それぞれを聖人に捧げていて、名高い聖人はたいてい記念日が決まっている。まずはそこから見てみることにした。フランス・カトリックの公式なサイト(http://www.cef.fr/catho/saints/index.php)でも、毎日の聖人にまつわるお話や、その人が何の守護聖人だかきちんと書いてあって、なかなかわかりやすく便利。日本語だと、女子パウロ会のサイト(http://www.pauline.or.jp/)でも、365日分の聖人の簡単な解説がされていた。そんなこんなでインターネットを駆使しつつ、リールに教会がある、聖モーリス、聖カタリナ、聖エチエンヌ、聖ミッシェル、パリにある聖ジェルマノ(サン・ジェルマン)、モンマルトルに縁のある聖ドニ(サン・ドニ)あたりから調べた。

調べ始めて最初にうーん、と思ったのは、例えば聖カタリナ(カトリーヌ)だけでも歴史上何人も存在すること。アレキサンドリアのカタリナ、シエナのカタリナ、あたりが有名どころのようだが、フランス・カトリックのサイトでエントリーされている聖カタリナは何と11人。教会に実際に行ってみて、どのカタリナさんが奉じられているのか見てみないとわからないけれど、やっぱり一番古い人の重要度が高そうではある。すると4世紀のアレキサンドリアの聖カタリナか。
さて次にうーんと思ったのは、初期のキリスト教には殉教者が多くて、とっても残酷で凄惨な話が後から後から出てくること。例えば先に挙げたアレキサンドリアのカタリナは、キリスト教初期の有名なおとめ殉教者で、車輪と一緒に描かれる図が多くあるのだが、それというのも彼女がクリスチャンだからというので皇帝から拷問を受け、車輪に括りつけられて身を引き裂かれたからだということ。それでも神のご加護を受けた彼女は息を引き取らなかったので、最後には斬首された。どうやら調べているうちにわかったのは、『黄金伝説』というドミニコ会の修道士が13世紀に書いた初期キリスト教聖人伝説があり、ローマなどの迫害で凄惨な目にあった殉教者の言い伝えがたくさん残されていて、「ローマ兵に捕まる→釜ゆでにされる→神のご加護で死なない→棍棒でなぐられる→神のご加護で死なない→斬首される→天に召される」というパターンがとても多いとのこと。
http://www.shajisitu.or.tv/e006.htm より引用 このページでいくつか聖人のお話が読めます。)

黄金伝説抄

黄金伝説抄

恐いの痛いのが苦手な私はひええと思い、やや調べる勇気をなくしかけたが、そこは不思議なもので、いくつか読むうちに馴れてしまった。むしろ、次第に、信仰に命をも捧げた強い意志、強い人格みたいなものを感じて、ちょっと清清しく尊い気分にさえもなってきた。やっぱり物語の力は偉大です。・・・とはいえやっぱり、のべつ幕なしな殉教者礼賛みたいなのは得意ではない。
フィールドワークは今日で3日目。サクレ・クール、サン・ミッシェルと回って、最後のサンテチエンヌでは丁度ミサが始まる前だった。興味本位で、初参加。老人が多くて、見慣れた顔ぶればかりの中で私がめずらしかったのか、「Venez-vous faire la lecture?(聖書を読んでもらえますか?)」と神父様から声をかけられたのには驚いた。「できません」と答えたら、つまらなそうな顔をして行ってしまった。ミサは50分ほど続いたが、オルガンがずっと鳴り響き、ずっと歌っているような調子だった。途中インターバルで現代音楽のような楽曲が挟まれたのにも驚いたが、かえって心情にはぴったりな響きで意外だった。そういえば新しい教皇ベネディクトゥス16世も、最近フランスで「ア・ラ・カルトの宗教」*1が流行している現状を憂いて、若者よミサに来なさい、と呼びかけていたようだが、案の定というかなんというか、参加者に若者はほとんどいなかったし、私も途中で退屈してしまった。退屈だなんて教皇に言ったら不敬虔と怒られるかもしれないけど、私カトリック信者じゃないもーん。(ふ)

*1:正統派カトリックが定める教義から距離を置きつつ、他宗教などからスピリチュアルな要素を「ア・ラ・カルト」で取り入れ、その人独自の信仰体系を構築していく宗教傾向のこと。宗教社会学者が命名した概念で、主に1970年代以降の若者層に見られるという。(き)