かりんちゃん、ヘリに乗る

 今日は妻と私で、自治医大にドナー検査に出かけてきました。妻は自分の肝臓を「あげる気満々」(妻自身の言葉)で、私と適性検査の数値で張り合おうとしていましたが、私としても産褥期の相手に負けるわけにはいきません(笑)。予想通り検査は私を軸に進み、「適正」と出ました。検査の判明まで時間のかかる感染症の有無だけがまだわかりませんが、まず陰性で大丈夫だろうということで、あとは香凜が搬送の最中や自治医大到着後に体調を悪化させないかぎり、月曜日に生体肝移植手術ということで決まりました。
 香凜は明日の日曜日、宮城県の子ども病院から栃木県の自治医大までヘリで移動します。生まれてから、出生した病院と子ども病院のあいだしか移動したことのない赤ちゃんです。この二つの場所とそのあいだの一度きりの移動空間にわずかな痕跡を残して生涯を閉じたかもしれない赤ちゃんです。それが明日、生きていくことを目指して飛び立ちます。それが生の躍動であることを願ってやみません。
 手術は難しいことが予想されます。小さなお子さんが大きな手術に臨むときの親御さんのご心配は、もちろん難易度の問題ではありませんが、それでも月齢や体重のあるお子さんの胆道閉鎖症などは生体肝移植手術としては症例も多く(自治医大では122例中98人)、成功率も高いものです。うちの子の場合は、新生児の劇症肝不全に当たり、症例も極めて少なく(自治医大では4人)、統計上の勝機はまさに5分5分です。そこからの1年生存率は70%から80%のようなので、総合的にみれば成功率は3割5分から4割でしょうか。たとえとして不適切かもしれませんが、イチローがバットを振り抜いた打球がヒットになるかどうか、といったところでしょうか(でも彼はヒットになることを確信してバットを振り抜いているわけですから、あながち不適切なたとえではないのかもしれません)。日本の生体肝移植の最短は、生後25日(新潟大)ということですから、もし今回うまくいけば、記録(生後17日)として新聞記事にもなるかもしれません。
 ここまで香凜のいのちの火を灯し続けてきてくださった子ども病院の先生方、これだけリスクの高い手術を引き受けてくださった自治医大の先生方の心意気に感謝したいと思います。あとは先生方の腕と香凜の生命力を信じること。私の肝臓がうまく香凜に定着してくれるよう願いとともに見守ること。私たちや支えてくださっている方々の思いが届いて、香凜がどうかこの世に引きとどまり、幸せな一生を送ることができますように。