加藤周一とフランス
9月17日に日仏会館で、海老坂武氏による加藤周一記念講演会が開かれるようです。タイトルは「加藤周一とフランス」。東京にいたら行きたかったなあ。
- 作者: 海老坂武
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1981/01
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留まるか、帰るか。帰るなら、いつにするか。『羊の歌』(続)からの引用。
はじめてパリの街を見たときに、私は大都会というものはどこでも大同小異であると思い、一年の後東京へ戻るつもりでいた。しばらくして、その国の文化に一種の奥行きを感じ、いくらかでもその深さを測るためには、一年程度の滞在は準備期間にしかすぎないだろう、と考えるようになった。私は滞在を延長するのに、少しもためらうことがなかった。しかし滞在の二年に及ぶ頃から、相手の奥行きがとめどもなく深く、そのなかへ入ってゆくと、深淵に吸いこまれてゆくように、遂に出口がなくなるのではないか、という気がしはじめた。その考えには、眼まいというか、ほとんど戦慄に近い感じが伴った。・・・・・・私はフランス国滞在の延長が、当然のことながら、日本国からの不在の延長になるということを、頻りに感じ、そもそも引きあげるとすれば、あまりに深入りしないうちに引きあげなければなるまい、と思うようになった。
- 作者: 加藤周一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1968/09/20
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- 作者: 三浦信孝,Bernard Cassen
- 出版社/メーカー: 藤原書店
- 発売日: 1997/05
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三浦 初めに話されたように、先生は複数の言葉を学んだから、それで西欧に対するある意味のコンプレックスから解放されていたということはありますね。
加藤 ええ、あるでしょうね。
三浦 やはり仏文だけだったら、そういう発想は出てこない。たとえば森有正みたいな道を歩んだかも知れない。向こうへ行って、一生懸命フランス人と同じようにフランス語ができるように涙ぐましい努力をして、「遥かなノートルダム」に近づこうとする道を。
加藤 いや、ぼくと森さんとの決定的な訣別は、森さんはとにかくフランスに近づけば近づくほどよいと考えていた。フランス語で書かなければだめだという考え方でしょう。それならば、結局、思想的黒田清輝です、印象派の弟子です。おそらくボザール[美術学校]で、一番できる弟子でしょう。しかし先生と弟子はちがう。黒田清輝がいなくてもフランスはちっとも困らない。黒田清輝は印象主義の一番いい弟子だけれども、印象主義の歴史がそれで変わることはない、黒田清輝なしで印象主義の歴史は書けます。ぼくはフランス人とは別の道を歩むことで、われわれは創造的になりうるし、そうあらねばならないと思った。(・・・)
ただ、森さんに賛成なのは、日本へ帰りたくなかったら、帰らないほうがいいということです。それは大事な問題です。思想家として、芸術家として、あるいは文学者として、一番大事なことに触れているときは、金がないとか、家の事情でとか、そういうことを言っていてはだめなんだ。帰りたくなかったら帰らないほうがいいと思う。ぼくは帰ることにしたから雑種文化論を書いたというよりも、帰ることにした理由の一つが雑種文化論なんです。