ボルドー近郊でカヤックを楽しむ

ちょっとひと休み

8月2日の早朝にリール・ヨーロッパ駅を発ち、ボルドーの知人の実家に3日間ほどお世話になった。彼の親切この上なかった案内や、ランベール家の子供たちと一緒に過ごせた嬉しさもさることながら、彼のご両親がとても暖かく迎えてくれて、私たちにとっては本当に楽しい「夏休み」となった。
―括弧つきの夏休みというのは主に小・中学校時代の懐かしい思い出で、自分の時間を自分でコントロールしなくてはならなくなってから、大学以降、あるいは働き出してから完全に、失われてしまったような気がしていたけれど、今回の私たちは完全にパパ・ランベールとマミー・ランベール(彼のお母さん)のお世話になって、ワイン畑や海や砂丘に連れて行ってもらったり、食事をしながら話をしたりして、大人寄りというよりはむしろ子供の立場で楽しんでしまったので、ああ懐かしい「夏休み」だなあと一人感慨にふけっていた。(もちろん私より会話のできるダンナ様は大人寄りだったかと思いますが)
さて、自分の時間をコントロールするのが下手なお子様の私ですが、一人で自律して物事を切り開いていくことには憧れがあるし、冒険心はあるほうだと思う。(高校の校訓が自主・自律・自由だったように。失敗もたくさんしていますが・・。)何かテレビのドキュメンタリー番組を見て以来、カヌーはヨットと並んで憧れのスポーツだった。女性のカヌーイストが、あたりの自然環境に目を留めながら、自分の力だけで川を渡っていく。美しい川を見るにつけて、「社会」が心掛けることとして、一つの川の流れが生まれてから海にたどりつくまでを、どれだけ美しい水のままで、汚さずに保てるか、ということがあってもいいような気がしていたので、感性を持った人が川をそのように渡りながら上流から下流までを眺めることができるのは実に素敵なことだと感じていた。
そんなわけで、今回「カヤック・カヌーをやろうと思うけどどう?」という提案を聞いたとき、真っ先に飛び上がった。それに、折しもその2週間くらい前にドルドーニュ川と地域の環境保全活動をしている人を扱ったテレビ番組を見て、あんまり川と緑がきれいなのに見とれていたばっかりだったから、「ドルドーニュは近いはずだよ」というダンナ様の言葉を聞いて益々うれしくなった。
当日、着いたのはミオスというアルカション湾に近い街で、実際にはドルドーニュはもっと東、ボルドーに注ぐガロンヌ川の上流にあたる場所だったのでちょっと違ったのだが、日本でいえばアスレチックがありそうな森の中に幅5〜7m程(?)のゆっくり流れる川があって、10kmほどの長さで初心者向けのカヌー場となっている様子だった。親子連れもたくさん遊びに来ていた。ライフジャケットを装着して、上流に車で移動し、二人ずつカヤックに乗り込む。7人連れだったので、二人乗り3台と一人乗り1台だ。まずは私が前でダンナ様が後ろ。パドルは二人乗りの場合はシングル・ブレードを使うのだが、私の憧れはダブル・ブレードをくるくる使いこなすことだったので、一人乗りのランベール家の長男をいいなーと思って眺めていた。川の水は上から眺めていた間はあまり澄んで見えなかったが、カヤックに乗って近づくと、案外きれいだった。空も晴れて、木漏れ日がまぶしい。最初は漕ぐのに馴れなくてちょっと腕が疲れるが、二人乗りをいいことに運転を任せて、思いっきり空を眺める。気持ちいいー。などと怠けていると機首が思わぬ方向へ。ひえええーー。油断も隙もありません。最初はなかなかお互いのペースを掴むのに苦労します。「私が右漕ぐから、あなたは左ね!」など言いながら、より良い協力体制を目指すわけです。まさに夫婦生活ですね!
さて二人とも少し馴れて来た頃、ペアを変えようという提案が。子どもが3人、大人の男性は彼を含めて3人だったので、なんと私に一人乗りカヤックが回ってきた。(やった!) あとはテレビで観たのを思い出しながら、憧れのダブル・ブレードを回してみる。なんと言っても一人乗りだと船が軽いので、私の力でも一漕ぎで舟の向きを変えることができる。さっきまではあちこちがんがんぶつかっていたのに、障害も楽に避けられるようになって快適だ。ランベール家の人たちからも「うまいね!」と好評で、少し調子に乗った。するとガツンとぶつかる。まさに私の人生だ。この間、彼はランベール家の長女を前に乗せて運転していたが、どうも見ていると女の子を自由に漕がせて後ろで一人でがんばっている感じ。なかなか頼もしい姿ではないですか。
最後、もう一度ペアを変えて、また夫婦舟になる。お互いに一人一人でがんばって漕いでみた感想を述べ合いながら、少し広くなった川を渡って行く。二人とも、何だか最初よりも上達した感じがする。一人で漕ぐのは軽いし爽快だけれど、二人で漕ぐと景色がまた違って見えるなあ、それに、一人で漕ぐよりも遠くまで行けそうな感じ。頼りすぎないで、コンスタントにベストを尽くせばお互いにとってよいのだな、などと生活上の教訓を拾ってしまう私でした。
これが日本の川だったら、高低もあって流れも急だろうし、おそらく安全面のことなど厳しいのだろうから、こんなに長いことゆるゆる遊びながら身体をフルに使って上達するという訳には行かないだろうなあ、などと思いながら、辺りを眺める。森の景色はずっと同じような感じで続き、急流は一箇所もない。日本より少し黄味がかった陽射しはさんさんと注いで、水も木の葉もキラキラしている。辺りには観光客や監視員などまるで見当たらなくて、車の音すら聞こえない。すれ違うカヤックに慣れた風な若者二人連れなどもフレンドリーで楽しそうだ。いいなあ、ボルドーで育つと色んなアクティヴィテを楽しめますね、と聞くと、その通り、山(ピレネー)があって、川があって、湖があって、海があるからね、と。それに何と言ってもワイン、とにっこり。地元の人に案内してもらえて本当にラッキーだった。

翌日、腕が筋肉痛になるかと思いきや、案外そうでもなく、むしろ脚や腰が少しだけ張っていた。カヤックは全身運動だったんだと納得。日本に帰る前に、もう一回やりたいなあ。(ふ)