30にしてハマームに入る

この年になって初体験となると、だんだんネタがなくなってくるような気がするが、今日はハマーム初体験をしてきた。ご存知の通り、イスラーム圏で言うところのお風呂である。ここリールではワゼム地区にある。唯一リールで味わえる本物のハマーム、というのが売り文句だ。この地区は昔の場末に当たるが、街の発展がそれを飲み込んで、今はエスニックの香りあふれる特色ある地区となっている。日本食が切れたときに買いに来るのもこのあたりだ。
このハマーム、実は昔リネンの製糸工場だったところを再利用して作られている。リールは2004年ヨーロッパ文化都市に指定され、あちこちで昔の建物に手を入れて、今の用途に合わせて甦らせる企画があった。メゾン・フォリ(狂った家)と総称されるのだが、例えば使われなくなった昔の修道院や工場などを展覧会場や小劇場にしてしまうのだ。外側の「枠」をそのまま生かすという点は、日本ではあまり見られず、やはり石の文化ならではか(リールは煉瓦が多いが)と思わされるが、それはさておき、なぜハマームかである。
実は、今のところに引っ越してきて、唯一不満があるとすれば、浴槽がなくお風呂に入れないことなのだ。シャワーだけだと、どうも体の芯にたまった疲れは取れてくれない。せめてサウナでもないものかと思っていたのだが、そんなとき、ワゼムを散歩していると、このハマームを見つけたので、いつか行ってみようと思っていたのだ。
男性の時間帯は案外限られている。火曜日の夕方か週末かで、今日たまたま思い出したので予約を入れた。ちなみにホームページはこちら↓なのだが、「オリエンタルな異国情緒」ただようものとなっているのでご参照あれ。
http://www.zeinorientalspa.fr/
なにせ初めてなもので緊張する。湯舟なのかな純粋なサウナなのかな、裸じゃやっぱりだめで水着着用かな、タオル忘れたら余計にお金取られるかな、貴重品取られたりしないかな、などなど我ながら小心者である。
入るとまず更衣室に通され、そこで下着か水着の上から腰巻のようなものを巻き、サンダルに履き替える。タオル、バスローブも渡される。次の間が休憩室で、タオル、バスローブをいったんそこへ置き、浴場に入る。最初の浴場は30平米くらいだろうか、温度は30度から40度くらいだと思う。さらに奥に50度か60度くらいの低温サウナがある。蒸気にユーカリが混じっており、鼻や胸がすっとする。天井などには煉瓦が残っており、昔の工場をそのまま再利用したことが伺えるが、デコレーションはまさにイスラーム風で、それこそムハンマド様式とかいうのだろうか、詳しいことはわからないが、シャワー室が鍵穴風にくりぬかれていたり、窓枠やタイルの模様がいかにもだったりで、ちょっとしたアラビアン・ナイト体験である。黄金をやるなどと言ってくる巨人には出会わなかったが、若い兄ちゃんがた4人と、保湿効果のある黒石鹸なぞを分けてくれ背中に塗りたくってくれる初老の紳士には出くわした。ぞっとするような触られ方ではなかったからこれなら大丈夫だと思ったが、こういうところへ来ると、まさか違うよな、と余計な気を回して心配してしまったりもする。
しめて18ユーロなり。いい汗がたくさんかけた。家内は「顔がすっきりした」とのこと。ハマームの入り口にはこうあった。Tu ne sortiras pas d’ici comme tu y es entré. 入ったときとは別になって出てくるよ。まんざら誇大広告でもなかったようだ。また時折行くことにしようか。(き)