最初の給水地点?

 今日、ようやく博論の第1章に当たる部分に最初のまとまりをつけることができた。マラソンで言えば、最初の給水地点で水を手にしたが、まだ飲んではいないといったところか(しかしマラソンなら私の足でも4時間あれば終わるのだから譬えとしてあまりよろしくないかもしれない)。19世紀フランスのライシザシオンの動きを、道徳の局面および宗教研究の局面双方を見据えながら、その連関そのものを構造化しつつ「系譜学的」に辿るというのが論文全体の筋である。何とも無謀な企てをしたものだ、と我がことながら思うのだが、人間というのはどうにかこうにか解きうる問題しか立てようがないらしいから、やりがいのある仕事に取り組んでいるのだとまあ自分なりに納得して一歩ずつ進むしかない。
 1章といっても、なかなか問題が大きくて、1枚当たり35行程度でちょうど100枚に達してしまった。仮タイトルは「フランス19世紀前半の宗教状況におけるオーギュスト・コントの宗教史と実証主義的道徳」。19世紀前半のフランス社会における宗教状況を整理した上で、コントが宗教学とライックな道徳の形成の上でどのような役割を果たしたかを論じたものだが、もうちょっと詳しく話の流れをかいつまむと以下のようになる。
 1.大革命後のフランスは知的・社会的に混乱しており、そうしたなかで宗教の問題が知識レベルでも政治レベルでもクローズ・アップされてきた。そうした宗教問題に対して、様々な立場からの研究や発言が出てくるが、19世紀前半に話を限って言えば、「遅れて」やってきたのは実証主義であり、サンテーズの位置に来ると考えられる(ここまでですでに40枚を越えてしまった……)。
 2.実際、コントの実証主義は、まさにフランス革命後の知的・社会的混乱に終止符を打つことを課題とし、またその課題にどの学派よりも抜本的かつシステマティックに応えようとするものであった。
 3.さて、実証哲学は諸科学の歴史にほかならないが、そのなかで宗教史の問題も扱われている。ところで、宗教史は実証哲学の一部を占めるに過ぎないものなのだろうか。むしろコントは宗教のあとに科学が来ると考えているのではなく、科学的精神は宗教的精神の成熟であると考えている。また、コントは宗教を社会の知的・政治的調整をつかさどるものと考えている。この観点から見ると、人間の知的・政治的発達を辿るコントの「社会学」はそのまま宗教史と言えるのではないだろうか。他方、この宗教史は、同時代に向けての実践的関心ともリンクしており、道徳の問題ともつながっている。コントにおける「道徳」は、第7の科学と呼ばれたり、社会のなかの個人の研究だと言われたり、愛他主義に他ならないとされたり、実に多様な印象を与えるが、外的な多様性のもととなる中核的な一をとらえて、彼の体系における道徳の位置を明らかにする必要がある。
 4.このような作業から、コントの人類教の基本的構造が見えてくる。コントの教育論の概要もこの流れで論じられる。また、コントの想定する政教関係は、コンコルダ体制、ライシテ体制、ルソーの市民宗教のモデルなどと比べて、どのような特質を持っていると言えるだろうか。
 5.最後に、コントの実証主義は、弟子たちにどう受け継がれたのか。リトレ陣営とラフィット陣営は、宗教研究と道徳の問題を扱う際、どのような切り分け方を行ったのか。
 ふぅ。前便で、指導教官との面談延期について書いたけれども、本当は、12月14日の時点でここまで進みたかったわけである。明らかに無理な話だった。しかも、ちょっと根詰めたせいで、数日少し調子がおかしくなったから、間に合わないときは間に合わないものと諦めることを覚えていく必要があると自分に言い聞かせたい。
 とりあえず最初のまとまりをつけただけなので、これで安心しきらず、書き落としたことなど、註で論じたり、本文に盛り込みなおしたりといった作業も怠らずにやりたいところ。とにかくキリがいいので、本年中はこれ以上先に進むことはやめて、1章の見直し、2章の下準備、そして他に溜まっている仕事を片づけていきたい。
 それにしても、博論をとにかく1章の頭から書き出したいと1年半くらい前からずっと思っていながら、どうにも頭から書き出せず、ちまちまと部分になるようなところを軽くまとめたりいじったりするだけだったが、この2ヶ月くらいでとにかくこういう形を取ってきたのは大変喜ばしい。まだまだこれから肉体的にも精神的にも元気になると思うが、一時期はどうにも調子が上がらずこれは何か悪い病気なのではないかと訝っていたくらいだから、中・長期スパンで見て調子が上がってきているのだと思う。理由は前みたいに運動するようになったこと、いくつか健康のために新しく生活に取り入れたこと(以前書いたハマームの記事については下のリンクを参照のこと)、それから食事の栄養バランスが整ってきたこと。当ブログは、のろけブログではないのですが、「ふ」に感謝です。 (き)http://d.hatena.ne.jp/kiyonobumie/20051011