かろうじて、探す春

実家から、杏の花だよりが届いた。3月の春の足音を生ぬるい風や枝先の芽のふくらみに感じたくてうずうずしている私なので、まだ陽光だけというのでは味気なくて、さすがにお正月以来の日本の季節感恋しさにとらわれている。やっぱり、この違いは湿度の問題だろうなあと思う。日本はあれだけ海に囲まれている国なので、土地よりも保温性の高い海水から先にじわじわと暖まって、熱気を南風が運んでくるのだ。冬至の折り返しから、確実に太陽は地表に近づき日照時間は長くなるわけだから、大洋は一喜一憂せずにじっくりと長い気温変化のうねりを生み出してくれる。その、湿っぽいグラデーションのある感じが、日本の素晴らしい四季の本質なのだろうなあと思う。春一番だったり、嵐だったり、訪れを待つ側としては唐突だけれど、海の側では、ゆっくり時間をかけてその沸点を準備しているのだ。こちらリールでは、気候は海との関わり以前に大気そのものという感じなので、3月20日の春到来宣言があってからも、寒い日は雪が降って1月2月と変わらないし、早朝のしとしと降りに南の気配は感じられない。3月に入ると南はスペインから真っ赤な大粒イチゴが届き始めるが、それも風が届けた季節というより、トラックや運搬車に乗って人為的に届けられた季節という感じ。ちょっと味気ない。(それでも買ってしまい、やっぱりと物足りない思いをする。それにこちらでは、北から南、あるいは南から北への移動というものに、少し社会的・文化的な匂いがする。)ああ、梅の香り、南風!
もちろん、湿度のオブラートに包まれていない良さもあり、晴れた夜の星の光は目を刺すようだし、6月の芝生が跳ね返す光は、幅広い放射のレンジを含んで、赤・緑・特に黄色の光を乱反射させたようなまばゆさがある。これは日本の6月のしっとりと濡れた紫陽花の葉の緑とは別の良さで、ぐんと近づいた太陽の権力を直に感じることができる。また低気圧のもたらす体のだるさ、頭の重さにも縁がない。大気はどこまでも高くて、個と天の関係はとても軽くて垂直な感じがする。
話はやや変わるが、日本と西洋の文化の違いを水と油のたとえで考えてみてなるほどと思ったことがある。持論なのですが、公と個のあり方にこの気候の違いが影響している。つまり、水は均質になろうとする。洗面器のなかに墨汁をたらせば、全ての水がにごる。だから異質のものを嫌うし、同質をもって良しとする。反対に油は、それ自身で濃厚なエッセンスとなり、少量の中にエネルギーを秘め、水と混ざらない。日本の公私混同は、この水文化に起因し、西洋の個人主義は、個々が個々の香りを有したオイル・エッセンスとなることで高められる。のではないかと。脱線。
そんなわけで、スーパーに行くたびに何か春らしい果物や野菜はないだろうかとつい探してしまう。私はこっちで本格的に暮らし始めたのが昨年の6月なので、今はまだ一巡目の新鮮な季節なのだ。春の訪れはどんなものかと楽しみにしていたのに、なかなか実感としてはやってこない。野菜売り場ではエスパニョル産やモロッコ産のトマトも確かに安くなってきたけど・・・そういうことじゃなくて!
と、最近一番「春らしい」熱気を感じるのは、CPE反対のデモの声。面白い時期に立ち会っているなあ、と思う。リール第3大学もストに入ってそろそろ1か月。折角の授業がつぶれるのはいい加減やめにしてほしいけれど、若者どうにか頑張れよ、と内心応援している。大学ブロック以外の手段はないものかと思うけれど。(文化的な背景があるのでしょう・・・。)御大方のブログめぐりに精を出す日々であります。

雑ネタ1:ラルース社の「Cuisine Facile」より季節の果物と野菜
主に春から出始めるものをピックアップ(主に、とあるのは一年中出るが、という意味)

  • イチゴ(2月から10月 うそ!)
  • アスパラ(3月から7月)

うそ!たったそれだけ?やっぱり3月はまだ冬なんだ・・。
逆に3月で終わるものはクレモンティーヌ=みかん(11月から3月)。
ちなみに4月を見ると、

  • マンゴー(主に4月5月)
  • アーティショーク(主に4月から10月)←もう出てるけどな
  • きゅうり(主に4月から8月)
  • ほうれんそう(主に4月5月)
  • オゼイユ(日本名スカンポ、主に4月から6月)
  • グリーンピース(主に4月から8月)

4月で終わるものは根セロリ、アンディーヴ、マーシュ・クレソン、ですと。ほんまかいな。
魚を見ると、サルディン、アンチョビなんかが4月から。


雑ネタ2メテオフランスによれば、今日のリールは

  • 最低気温 6℃
  • 最高気温 15℃

ですと。もっと寒い気がするなあ・・・。(ふ)