ブダペストのラトル・ベルリンフィル

夜、何だか寝付けないまま、はっと思い出して、フランス2で深夜放送されると夜のニュースでちらっと見た、ラトル・ベルリンフィルの演奏会がまだやってるかなと、起き出してテレビを付けた。すっかり銀髪のラトルに、黒髪・ひげ・メガネの端正なお兄さんの難解で端正なVnコンチェルト。後で分かったのだが、どうやら私が見始めたのは、1曲目の1楽章の最初あたりで、つまりこの演奏会はほとんど全部聞けたことになったのだが、日本でも今年の1月にBSで放送された、2005年5月のブダペストでの演奏会だったらしい。
他のブログからプログラムを拾った。

バルトーク バイオリン協奏曲第2番  
ストラヴィンスキー バレエ音楽火の鳥」  
 バイオリン:レオニダス・カヴァコス  
 指揮:サイモン・ラトル  
(2005年05月01日ハンガリー国立歌劇場)

ベルリン・フィルは相変わらず上手い。相変わらず、といっても、毎回、見るたびに感心するところが少しずつ変わるのがすごい。常に同じではない。2002年と2004年に、生の演奏を聞く機会があったけれど、指揮者によっても、曲によっても、時によっても、感動のしどころが変わるとてつもないオーケストラ。森のざわめきや、星座の配置にも似て、すごく広がりのある全体性や統一感は同じなのだけれど、その時々で目に入ってくる星の輝きは見るたびに異なるといった感じ。何かがとても壮大なのが気に入っている。
サイモン・ラトルという人は、インタビューなどでは非常に親しみやすく、わかりやすい言葉で話す人という印象があるけれど、本質的には、非常に哲学的な人なのではないかなと感じる。オフの時にはスピノザを読む、と語っていたのを随分前にちらっとどこかで読んだことがあるような気がするが、なんというか、演奏から感じるのは、アバドがヨーロッパの19世紀・20世紀的な退廃美、世紀末的な雰囲気を持っていたとしたら、ラトルから感じるのは、ユダヤ・キリストの神ではなくてむしろギリシアの神話時代の宇宙的・かつ未来的な神々しさというか、非常に前向きで宇宙的な雰囲気。キリスト教暦2000年より、さらに壮大なスケールを感じさせる人。それに頭が良すぎるという感じ。
この日演奏されたバルトークのコンチェルトにしても、楽譜のすみずみまで本当にクリアに見渡せている感じがする。バルトークの2番、(知らなかったけど)カヴァコフの硬派なソロが素晴らしくて、集中力も高く、指揮者と、ソリストがこの難解な曲をスパーンと把握している感じが何とも言えず、見入ってしまった。ベルリンフィルは見事にサポートしていた(金管のバランスなんてありえないくらいに見事)が、本当にソロが良かったので、2曲目の火の鳥では、弦楽器の各ソロが物足りなく感じたほど。
火の鳥という曲は、ある意味、アドレナリンの出所があるというか、キャッチーなというか、分かりやすさ・気持ちよさがある曲で、(ブラームスのシンフォニー1番の4楽章じゃないけれど、)それなりに聞く方が期待してしまう曲なのだが、ラトルは、さすが聴衆のつぼは押さえつつ(つまり、それなりに一緒に気持ちよくなってくれつつ)、かといってどうしてもこの人は頭が良すぎて人前では脱ぎきれない、曝しきれない上品さがあるので、物足りなくない程度に、上手くスパイスと抑制を効かせた曲作りだったと思う。冒頭なんかもそれなりにファンタジックだった。ラトル・ベルリンフィルにとって「火の鳥」は、2005年の教育プログラム「ベルリンフィルと子どもたち」―子供たちにバレエを踊らせる企画で、ドキュメンタリー映画になったり、素晴らしいとの評判―で扱ったりと、もう数え切れないくらい演奏している、ある意味では手垢のついた曲なのだろうけれど、それを感じさせつつも;;演奏としては木管楽器のスタープレイヤーが光って、超名演とまではいかなくても、それなりに楽しめた。何と言ってもオーボエアルブレヒト・マイヤーが圧巻!ベルリンフィル創立以来の名奏者との呼び声も高いらしいけれど(まだ若いのに)、本当に、彼が一生懸命吹いている間、ラトルが満足そうなのがよくわかった。他のソロは、指揮者の曲作りの範疇で最高のパフォーマンスをして見せていた、という感じだったけど、彼だけは、さらに超えた音楽性を感じさせて、ラトルも自由に任せているといった風だった。(この任せ方がまた神々しい。)

火の鳥で思い出したこと。そういえば去年の7月頃、いま住んでいる通りの近くのホールで、コンセルヴァトワールの教授と生徒が合同で行なう無料コンサートがあって見に行ったなあ。チェロのソロが上手だったのと、ラストの盛り上げで、アドレナリン大放出!!という感じが何ともフランス(の地方オケ)的??だったのが印象的で、客も大いに満足し、ああ、この曲ってわかりやすいんだと改めて思ったのだった。個人的には、生でも、録音でも、愛聴版のブーレーズ・ニューヨークフィルを超える演奏に出会ったことはまだないなあ。ブーレーズが特に好きという訳ではないけれど、この演奏だけは、何度聞いても飽きない。(ふ)
 

ストラヴィンスキー:火の鳥

ストラヴィンスキー:火の鳥