フランスの子どものうた

 娘もようやく2ヶ月になりました。ときどき、あ、大きくなったなと実感することもあるものの、毎日のことだから、普通はそうそう違いには気づかない。けれども先日、友人が第二子を出産したので病院にお祝いとお見舞いに行ったとき、生まれたばかりの子どもの大きさと比べてびっくり。そうやって比べてみると、うちの子もずいぶん大きくなったものです。今日はとっておきのかわいい写真を公開させていただきます。親馬鹿ぶり、ご勘弁のほどを。

 親馬鹿ぶりといえば、娘がいろいろな種類の発音をできるようになってきたのですが、何かもう「パパ」とか「ママ」とか言っているみたいです。ってこんなこと書くと、本当に人から見るとただの親馬鹿なんでしょうね。でもはっきり発音できないまでも、赤ちゃんは機嫌のいいときいろいろ喋っています。「アブー」とか「ウフー」とか「ア、ア、ア、ア」とか。「ウフー」というのがフランス語の「heureux」に聞こえるので、「幸せなの、そうなの。でもね、雅恵ちゃんは女の子だからheureuseだよ」なんて言っているうちに、これはひょっとしてパパに「幸せ?」と聞いているのではないかなどと勝手に思い込んだり。勝手にやってろって感じでごめんなさい。
 ところで、今さっき言った友人ですが、彼女からはうちの娘が生まれたとき、子どものシャンソンのいっぱい詰まったCDをお祝いにいただきました。これがまた、「あやす」のによく使えるのです。歌詞がついていなかったのですが、そのうち何と歌っているのか知りたくなり、ネットで検索したら、子どもの歌のサイトがありました。CDに入っている歌のうち、9割方はここで見つけることができました。

 日本の子どもの歌や子守唄にも、「どうして?」と思うような、変でおかしな歌詞があったりしますが、フランスの歌でもそれは当てはまると思います。どれもこれも有名な歌だと思いますが、例えば、

Il était un petit homme
Pirouette cacahuète
Il était un petit homme
Qui avait une drôle de maison
Qui avait une drôle de maison
Sa maison est en carton
Pirouette cacahuète
Sa maison est en carton
Les escaliers sont en papier
Les escaliers sont en papier

ダンボールでできた家って、もしやSDF……?

Alouette, gentille Alouette
Alouette, je te plumerai.
Je te plumerai la tête,
Je te plumerai la tête,
Et la tête, et la tête,
Alouette, Alouette, Aaaah...

かわいい声して歌っていると思ったら、なんと残酷な……

Au clair de la lune,
Mon ami Pierrot
Prête moi ta plume
Pour écrire un mot
Ma chandelle est morte
Je n'ai plus de feu
Ouvre-moi ta porte
Pour l'amour de Dieu !

甘いこと言って、こぶたを騙すおおかみを思わせますな。

 ところで、この3番目の歌については、その「由来」を「創作」したミシェル・トゥルニエの作品があります。『7つのコント』に入っている「ピエロ、あるいは夜の秘密」。だいたいこんな話です。
 ある村に、二軒の白い家がとなりあって並んでおりました。一軒は洗濯屋で、娘の名前はコロンビーヌと言いました。もう一軒はパン屋で、少年の名前はピエロと言いました。二人は子どもの頃から仲良しで、村人たちはいずれ二人は結婚するだろうと噂していました。
 けれども、見習いの年頃になると、二人は折り合いがあわなくなりました。ピエロは朝に温かいパンを用意するために、夜働きます。洗濯屋としてコロンビーヌが働くのは日中です。明るい太陽のもと、つねに純白の衣服をまとっているコロンビーヌは、夜暗いところで働くピエロの陰気な様子を煙たがるようになりました。
 あるとき、村にアルルカンがやってきました。カラフルな服を着たアルルカンは、家の壁を塗るペンキ屋というふれこみで村にやってきたのでした。彼は、二軒の白い家を見て、あまりに色の寂しい壁を塗ってあげようと思いました。そこで彼は、パン屋の戸を叩きました。ピエロは寝ているところを起こされました。コロンビーヌは隣の窓から見ていました。コロンビーヌがあまりに陰気なピエロの様子を笑うと、アルルカンは彼女の方を見て笑いました。
 コロンビーヌはアルルカンと付き合うようになりました。アルルカンは洗濯屋の壁をたくさんの色で塗りました。そして、アルルカンのようにカラフルな服を着たコロンビーヌを壁に描きました。やがて、アルルカンにはこの村でやることがなくなりました。彼は根っからの旅人なのです。コロンビーヌをつれて、ハネムーンに出かけてしまいました。かわいそうなピエロは恋に破れて打ちひしがれました。
 やがて、夏が過ぎ、秋が深まりました。アルルカンとコロンビーヌのカラフルで陽気な服も、何度かの雨で色があせてゆきました。コロンビーヌは村のことを、そしてピエロのことを思い出すようになりました。そんなとき、コロンビーヌはピエロの手紙を偶然発見するのです。
 「コロンビーヌ、行かないでくれ。アルルカンの色なんて、人工的で表面的なものにすぎないよ。きみはぼくのことを夜の人間と決めこんで、黒しか色がないと思っているのだろう。ぼくの夜は黒なんかじゃないさ、青いんだ。パンを焼くぼくのかまどは黒なんかじゃないさ、黄金に輝いているんだ。きみが好きだ。きみのことを待ってるよ。ピエロ」
 コロンビーヌは村へと走りました。雪が大地をおおい、月が空にさめざめと光る夜でした。パンを焼いていたピエロは、コロンビーヌを迎え入れました。ピエロは何か言いたいけれども、何と言ったらいいかわからない。コロンビーヌは夜の寒いところを走ってきたあとで、かまどの火を近くに感じて眠りこけたい。ところへ、ピエロのパン屋の扉を叩く音があり、悲しげにこう歌う声が聞こえてくるのでした。

月夜の晩に
ピエロくん
ペンをかしてよ
書くために
ロウソク消えて
火はもうない
扉開けてよ
お願いだ

 ピエロは扉を開けてアルルカンを迎え入れてあげました。それから三人は焼けたばかりのパンを食べたのでした。そのパンは、ピエロがコロンビーヌの姿かたちに似せて焼き上げたもので、コロンビーヌは二人に「ほら、私を食べて」と言うのでした。めでたし、めでたし?

 ……中盤までは面白かったのだけれども、いいのかなあ、こんな結末で、というような思いもあり。でも、あとから意味深に響いてくるところもあるようで。(き)