旧植民地の退役軍人に対する処遇

Hamalaoui Mékachéra

 すでにShiba氏のブログでも取り上げられているが、9月27日、過去にフランスのために戦った旧植民地出身の退役軍人や傷痍軍人に対する恩給をフランス人と同額にすることが決められた(ル・モンドの記事はこちら)。
 これまでは、旧植民地出身の退役軍人・傷痍軍人は、同じ条件のフランス国籍を有している者に比して、最高でも3割の手当てしか受けられなかった。コンセイユ・デタ(国務院)は2001年、このような措置はヨーロッパ人権憲章にもとると判断、フランス政府は翌年から状況の改善に努めてきた。ただし、この時点では、「公正さ」の名目で、受給額には各国の物価に応じた差がつけられていた。今回の措置は、その差をなくし、一律にユーロで同額支払うもので、退役軍人担当相のアムラウィー・メカシェラ(Hamlaoui Mékachéra)は「公正さから平等への移行だ」と述べている。この恩恵に浴するのは84000人にのぼり、年間110億ユーロの国家支出に相当する。早速2007年の予算に計上されるとのこと*1
 メカシェラ氏自身、この年金手当の平等化に一種の感慨を禁じえないようだ。彼の父親はアルジェリア生まれで、第一次世界大戦の際にフランス軍に従軍、戦死しているという事情があるからだ。
〈民主〉と〈愛国〉―戦後日本のナショナリズムと公共性
 今回のニュースを聞いて思い出したのは、小熊英二『民主と愛国』の「あとがき」に収められているエピソードだ。手元にないので(もってくるには厚くて重すぎた)うろおぼえだが、戦時中には朝鮮系日本人として日本軍に従軍しながら、戦後は中国籍となったために、日本政府からの年金手当を一切受けることのできない元日本兵の話である。私の記憶に間違いがなければ、この人物と小熊氏の父親が同じ部隊にいたかなにかの縁だったのではないかと思う。小熊氏によれば、彼の父親はとりたてて政治的に右とか左とかいうわけではないものの、この措置は不公正だと見て、恩給を求める運動を一緒に行ったとのこと。結果は「門前払い」。制度的に言って、日本国民でなければ、日本政府からの恩給は受けられないとのこと。
 日本には日本の事情があるのだろうとはいえ、とりわけ現在のこの国は、今回フランスで記された「一歩」からはあまりに遠く隔たっていると思わざるをえない。なにせ新しい首相は村山発言を踏襲せず、「歴史認識は歴史家にお任せする」つもりのようだから。この発言には少なからずショックを受けたが、これは安倍首相がオリジナルなわけではなく、竹下発言の繰り返しである。どうしてこういうことをしれっと言って政治家としての見識を問われずにすんでしまうのか、私には疑問である。(き)

 追記:以下は10月7日のアサヒ・コムの記事より。6日の閣議決定として安倍内閣としても村山談話踏襲の形は取るようだ。

政府は6日午前の閣議で、先の大戦に対する歴史認識に関する答弁書を決定した。「95年8月15日と05年8月15日の首相談話等で示されてきている通りである」とし、「植民地支配と侵略」について関係諸国におわびを表明した戦後50年の村山首相談話と、同60年の小泉首相談話を、安倍内閣としても踏襲する方針を明記した。
また、72年の日中国交正常化に際し、中国政府が「日本の中国侵略は一部の軍国主義者によるもので一般の日本人も被害者だった」との立場をとったことについては「中国側の認識は承知しているが、国交正常化にあたっては日中間の交渉の結果日中共同声明に合意し、発出した」とした。福島瑞穂社民党党首らの質問主意書に答えた。

*1:20 minutesは"Les indigènes ne sont plus indigents"(現地人はもはや貧窮者ではない)と語呂よく報じている