飲み比べの韻

 テーズを少しでも進めるといういつもの課題に加え、論文原稿やら口頭発表やらを抱えていて、おまけに新学期の手続きでいろいろ振り回されるといった具合で忙しく、とても飲みに行けるような状態ではないのだが、前からの約束だったもので出かけてしまった。
 うちは、東に5分歩けば美術館と地下鉄、北に5分歩けばグランド・プラス、最寄のスーパーは南に2分となかなか生活の便に恵まれたところにあるのだが、そのスーパーのあたりにはバーがひしめいている。サッカーを大画面で中継するバーもあれば、ロックを大音響でかけるバーもあり、アイルランド風もスコットランド風もある。
 週末の夕方・夜ともなれば、夏場のヴァカンスを除いて、このあたりはよく賑わっているのだが、とりわけこの季節には賑わいの感じが強い。それは、ひょっとしたら新学期で新しく知り合ったり再び顔をあわせたりする友達と連れ立ってということなのかもしれないし、寒さのために酔いが帰り道の途中で醒めてしまわずにすむ最後の季節ということで、それを享受しようという気持ちがなんとなくはたらくのかもしれない。
 「何を飲む」と言われて、「おすすめを」と言ったら、一緒にいた友人二人が勧めたのは、名前は忘れたが12度もあるビールで、それが500で出てきた。二人のうちの一人が、二杯目はちょっと緩めてLeffeにとしようかと言うから、それに付き合うと、もう一人は「おれは昨日飲みすぎたから。飲み比べで1時間で13杯も飲んだんだ」といって、小休止の様子。
 そこで突然「リムを知ってる?」というから、rime(韻)のことだとは思ったけれども、詩の話などしそうな相手ではなかったので、「何のこと?」と問い返したら、「詩で行の最後に……」と言うから、「それなら知ってる」と。もちろんそこで、例えば、

Or moi, bateau perdu sous les cheveux des anses,
Jeté par l’ouragan dans l’éther sans oiseau,
Moi dont les Monitors et les voiliers des Hanses
N’auraient pas repêché la carcasse ivre d’eau

なんて一節が口をついて出るほど教養豊かなわけではないけれども(もちろん今は調べて書いた)、

Il faut être toujours ivre. Tout est là.

くらいなら知っているぞと思いつつ、何か飲むときの詩のようなのがあるのかと思って尋ねると、これがすごい。
 「例えば8時から飲み始めるだろ、8時きっかり(pile)だ。Huit heures pile, William Peel.」
 「そうそう」、もう一人が加わって説明を続ける。「8時5分、Huit heures cinq, une pinte.」
 「ははは、じゃあ、10分は?」
 「Huit heures dix, Pastis.」
 いやあ、すごい。以下のメニューは次の通り。
 Huit heures et quart, Ricard.
 Huit heures vingt, pain, vin, boursin.
 Huit heures vingt sept, Get 27.
 Huit heures et demi, un demi.
 Huit heures trente et un, Get 31.
 Neuf heures moins vingt, pain, vin, boursin.
 Neuf heures moins le quart, Ricard.
 Neuf heures moins dix, Pastis.
 Neuf heures moins cinq, une pinte.
 Neuf heures pile, William Peel.
 なるほど、40分からは折り返しになるわけか。全部違うので貫いてほしかったような気もするけれど。それにしても、個人的には苦手のパスティス系とアニス系が続く、10分から15分と、45分から50分が一番きつそう。あと、それまで飲んできた上に、1分でビールを空けなければいけない30分から31分も大変だ。一応20分と40分にはパンとチーズの補給があるわけだけど(さすがフランス人、意地でもワインはブリュットでは飲まない)、これを戻さずに済むのは難しいだろうな。あと、moins dix, Pastis.の1分後に、cinquante et un, Pastis 51.を入れたらもっとエグくなること間違いなし。
 ここまでチャンポンにしたら、必ずや吐いて、次の日に残るでしょう。週末はときおりうちまで届くような大声が聞こえてくるけれど、そのうちのいくつかは、さてはこんなことをやっているのが原因か。(き)