日本記録保持者

 日本記録にもさまざまものがあるようで、なかにはひとりでいくつもの記録を持っているスポーツ選手や各界の第一人者もいます。けれども、普通の人にはあまり縁のない話だと思います。今回のエントリーは、はからずも自分と娘がその当事者になってしまったという話です。もちろん記録の保有者として第一に挙げられるべきは、自治医大の移植外科チームです。
 香凜の生体肝移植手術は、生後17日目に行なわれ、国内の記録ということはその時点でわかっていたのですが、移植は「手術が50パーセント、術後が50パーセント」とも言われ、成功の発表はだいたい退院が確定してから行われることになっているようです。昨日、自治医大の先生が、マスコミに一斉発表を行ない、昨晩から今朝にかけて、ネットや新聞で記事になっています。
 記録保存の意味で、見つけた記事を貼りつけておきます。必要に応じて、細かい修正点を指摘しつつ……。

生後17日の女児、父からの生体肝移植に成功…国内最年少
 原因不明の劇症肝炎で肝不全に陥った生後17日の女児(体重2600グラム)が、父親(33)からの生体肝移植手術を自治医大病院(栃木県下野市)で受けて成功、無事退院したことが8日わかった。
 生体肝移植としては、国内最年少で、最も体重が軽いという。
 手術を受けたのは、仙台市日本学術振興会特別研究員、伊達聖伸(きよのぶ)さんの次女の香凜(かりん)ちゃん。昨年10月10日、地元の病院で生まれたが、移植以外に回復する見込みがないと診断された。だが、手術ができる病院が見つからず、聖伸さんがインターネットのブログに窮状をつづったところ、「新生児の生体肝移植では、自治医大が経験豊富」などの情報が寄せられた。
 連絡を受けた同大の水田耕一准教授が診断。10月27日、同准教授らの執刀で、聖伸さんの肝臓の一部が移植された。手術後2日ほどで土気色だった顔に赤みが差し、昨年末に退院した。聖伸さんは「ネットに命を救ってもらったようなもの。本当にありがたい」と話す。水田准教授は「2600グラムの新生児でも肝移植で救命が可能だと証明できたことは喜ばしい」と語った。
(2009年1月9日03時04分 読売新聞)

 読売は写真つきでした(朝刊紙面では、版によって1面か社会面だったようです)。大学の部活の先輩が記者にいて、何年ぶりかに再会し、取材を受けました。ただ、記事を読んだ先生のひとりは「ちょっと違うんですよね」。「新生児の生体肝移植では、自治医大が経験豊富」云々とありますが、正確には、「小児の生体肝移植では、自治医大が経験豊富」であって、「新生児」の執刀は香凜まではなかったとのことです。

生後17日の女児へ生体肝移植に成功 国内最年少記録
 生後17日、体重2.6キロの女児への生体肝移植に成功したと、自治医科大(栃木県下野市)が8日発表した。手術に当たったチームの一人で、同大移植外科の水田耕一准教授によると、国内の生体肝移植では年齢が最も若く、体重が最も軽い記録という。
 手術を受けたのは仙台市の伊達聖伸(きよのぶ)さん(33)の次女香凜(かりん)ちゃん。原因不明の劇症肝炎と診断され、同大の移植外科と消化器外科のチームが昨年10月下旬に手術を行った。香凜ちゃんは昨年12月27日に退院。体重は約4キロになり、元気に育っているという。
 水田准教授によると、これまでの国内の最年少記録は05年に新潟大で成功した生後25日。
(2009年1月9日6時9分 朝日新聞

生体肝移植:生後17日の新生児、成功
 自治医科大(栃木県下野市)は8日、生後17日の新生児への生体肝移植に成功し、無事退院したと発表した。体重2600グラムの女児で、ドナー(提供者)は父親。国内で4600例を超える生体肝移植のなかでも最年少、最軽量。世界的にも、3番目に幼く、2番目に体重が軽い事例という。
毎日新聞 2009年1月9日 東京朝刊)

生体肝移植:最年少・最軽量 生後17日新生児で成功
 自治医科大(栃木県下野市)は8日、生後17日の新生児への生体肝移植に成功し、無事退院したと発表した。体重2600グラムの女児で、ドナー(提供者)は父親。国内で4600例を超える生体肝移植のなかでも最年少、最軽量。世界的にも、3番目に幼く、2番目に体重が軽い事例という。
 手術を受けたのは仙台市の伊達聖伸さん(33)の次女香凜(かりん)ちゃん。昨年10月10日に出生後、劇症肝炎の症状が出たため同27日に水田耕一准教授ら移植チームによって、聖伸さんの肝臓の一部を移植する手術を受けた。香凜ちゃんは体重が3700グラムまで増え、12月27日に退院した。父子とも順調に回復しているという。【葛西大博】

生後17日新生児が生体肝移植 国内で最年少例
 自治医科大付属病院(栃木県下野市)は8日、生後17日の女児(体重2600グラム)への生体肝移植に成功したと発表した。同病院によると、4600例を超える国内の生体肝移植では最年少かつ最軽量だという。
 女児は昨年10月10日、宮城県内の病院で生まれたが、間もなく血の混じった嘔吐(おうと)をし、翌日からは血尿などの症状も表れた。生後4日目には、原因不明の劇症肝炎と診断されて治療を受けていたが、症状は改善せず、女児の肝臓は通常の3〜5分の1程度の25グラムまで縮んでしまった。
 このため、女児は自治医科大付属病院に転院。10月27日、父親(33)から肝臓の一部を取り出して移植する生体肝移植手術を受けた。15時間に及ぶ手術は無事成功した。
 女児は術後の感染症などの合併症を克服し、3700グラムまで体重が増え、12月27日に退院。家族によると現在は体調も良く、夜泣きもするなど元気だという。
 同病院の水田耕一准教授によると、全米臓器配分機構から「世界でも、生後6日、生後16日の例に次いで3番目の若さ」との回答があったという。
(2009.1.8 22:13 産経新聞

 「生後4日目には、原因不明の劇症肝炎と診断されて……」とありますが、生後4日目には、ただ原因不明だっただけで、問題が肝臓にあるという特定はまだなされていませんでした。

生後17日女児に生体肝移植 体重わずか2600グラム
 自治医科大(栃木県下野市)は8日、生後17日目、体重2600グラムの女児に昨年10月下旬、父親の肝臓の一部を移植する生体肝移植を実施し、成功したと発表した。
 国内で行われた4600例余りの生体肝移植の中で最年少、最軽量記録で、世界的にみても生後日数の早さで過去3番目、体重の軽さは2番目の記録だという。
 発表によると、女児は宮城県で体重約2700グラムで誕生。しかし、生後間もなく血を吐いたり、血尿が出るなどの異常が続き「原因不明の劇症肝炎」と診断された。
 移植以外に助かる道がないとして、ヘリコプターで同医大病院に運ばれ、約25グラムと正常の3分の1以下に萎縮した自分の肝臓を摘出し、父親の肝臓の一部(約95グラム)を移植する手術を受けた。新生児のため非常に細い血管を縫う作業などに時間がかかり、手術は約15時間に及んだが、無事成功した。
 女児はその後、移植後の大敵とされる感染症など合併症を乗り越えて回復。体重は3700グラムまで増加し、昨年12月27日に退院した。
(2009/01/08 21:14 【共同通信】)

生後17日女児に生体肝移植成功 自治医大病院
 自治医大付属病院は八日、劇症肝炎と診断された生後十七日目の宮城県内の女児に、父親(33)の肝臓の一部を移植する生体肝移植手術に成功したと発表した。手術は二〇〇八年十月に行われ、女児は同年十二月末に無事退院した。同病院によると、一九八九年に始まった国内の生体肝移植で最年少だという。
 女児は昨年十月、生後四日目に仙台市内の総合病院で原因不明の劇症肝炎と診断され、肝移植が必要と判明。小児肝移植で東日本の拠点施設になっている自治医大付属病院にヘリコプター搬送され、同月下旬に緊急手術が行われた。
 同病院がこれまで実施した最年少の子供は生後五カ月。全国的には〇五年に新潟大病院で行われた生後二十五日の男児が国内最年少だった。
 自治の移植チームは約十五時間かけて手術を成功させ、女児も感染症など術後の合併症を乗り越えたという。経過は良好で、手術時に二千六百グラムだった体重も現在は約四千グラムまで増えた。
 同医大移植外科の水田耕一准教授は「細い血管の吻合などこれまで経験したことのない非常に難しい症例だった。新生児の肝移植成績は良くないことから、引き続き女児の経過を慎重に見守っていきたい」と話している。
(1月9日 05:00 下野新聞)

 下野新聞は、栃木の地元の新聞です。
 改めてすごいなと思うのは、自治医大の移植外科チームの技術と勇気です。自分としては、ただわが子が助かってほしかったということで、それがたまたま手術当時において国内最年少だったということにすぎません。世界でも2位、3位というのは、すごいことですが、世のなかの少なからぬ親の主観からすれば、みんな「わが子が世界一」なんだと思います。
 今回は、たまたま記録ということでうちが取り上げられましたが、自治医大の移植外科の先生方は多くの小児肝移植手術を手がけ、よくここまでみんなに神経が回るなと思うほど、その後のフォローもよく見てくださっています。それぞれの家族に、喜びと悲しみと不安があると言っていいと思います。それから、香凜が助かった背景には、残念ながら助からなかったお子さんのデータが、先生方の経験となって生きたということがあると思います(香凜のデータも、これからのお子さんの救命に役立つことがあるかと思いますので、それは大いに役立てていただきたいと思います)。また、特定疾患の適用がなければ、手術代や薬代などの費用は、とても私の手に負える額ではありませんでした。恥ずかしながら、当時者となって、ようやく制度のありがたみが身に染みた次第です。ようやく生後3か月になろうとしている小さないのちをここまで支えてくるのに、どれだけの人の手と力がかかっていることかと考えると、おのずと頭を垂れる気持ちになります。なかでも、手術まで香凜のいのちをつないでくださった宮城こども病院の先生方と、はてなとミクシイで有益な情報をくださった方には、特別な感謝の念を新たにします。
 親としては、究極的にはうちの子どもが助かってよかった、になるのかもしれませんが、社会的な大人としては、なかなかそうは言えません。そういう意味では、香凜は、未熟な私を、社会的な大人としての親に少しだけ近づけてくれたのかもしれません。親子の関係というのは、私的なものです。しかし、「子どもはあなたを通ってやってくるが、あなたから来るのではない」という言葉があります。香凜自身は社会的にはまったく無力な3か月の娘ですが、見方を変えれば、弱冠3か月にしてすでにおそろしく社会的とも言えます。そういうことを踏まえて言うとすれば、香凜が生きているということが、少しでも多くの人の希望になってくれればと思います。

(追記)読売の英字新聞を追加。

17-day-old girl has liver transplant
The Yomiuri Shimbun
Photo : Kiyonobu Date holds his daughter Karin, who received a part of his liver when she was 17 days old.
A 17-day-old infant girl weighing 2,600 grams is believed to have become the youngest and lightest patient to receive a liver transplant from a living donor in the country, The Yomiuri Shimbun learned Thursday.
Karin Date, second daughter of Kiyonobu Date, 33, of Sendai, received part of her father's liver in the operation in October at Jichi Medical University in Shimotsuke, Tochigi Prefecture. She was eventually discharged from the hospital in late December.
The girl was born on Oct. 10 at a local clinic but was diagnosed as suffering from fulminant hepatitis for an unknown reason. Doctors at the clinic reportedly told her parents that undergoing a liver transplant would be the only way to save her life.
However, the parents were unable to find medical institutions that would accept her because of her young age.
When Kiyonobu, a researcher at Japan Society for the Promotion of Science, wrote about the situation on a blog, one of the readers posted a message about a Web site that would be helpful for those having similar problems. Upon reading the message, the father immediately visited the site.
Through the Web site, he received e-mails informing him that Jichi Medical University was experienced in liver transplants on infants from living donors and providing him with the e-mail address of Prof. Koichi Mizuta at the university.
When the father contacted Mizuta, he came over to Sendai the next day to examine the baby girl. The professor was quoted by the parents as telling them, "It'll be difficult, but it's worth having a go."
On Oct. 27, three days after the professor visited Sendai, a part of her father's liver was transplanted into Karin in a 15-hour-long operation conducted by Mizuta's team.
A couple of days after the operation, Karin's face, which used to be deathly pale, took on a ruddy complexion, the parents said.
Karin was discharged from the hospital in late December.
"I feel like her life has been saved by the Internet. Karin received so much help from many people from the start of her life," Kiyonobu said. "I'm so grateful that she's become healthy."
Prof. Mizuta also expressed satisfaction, saying, "I'm really pleased that we were able to prove that it's possible to save the life of a 2,600-gram infant with a liver transplant if the necessary conditions are fulfilled."
(Jan. 9, 2009)