天声人語に

 今日で1月も終わりだと思って、朝日新聞の1面を眺めていたら、目に何かがひっかかった。自分の名前がある。月末恒例、天声人語のその月の言葉だ。これまでは、取材を受けて掲載日を教えていただいていたので、当人としては驚かなかったが、今回はびっくりした。この時代にあって、輪や連帯を構築しようと努力している人たちのあいだに位置づけてもらったことは、嬉しくもあり面映ゆくもある。

 戸外ですする甘酒やココアの湯気がひときわ白い。自販機のあったか飲料を、両手のひらで転がしてから開ける候。くらしの底冷えが重なる冬に、人の温(ぬく)もりを探す1月の言葉から▼東京・日比谷公園の「年越し派遣村」。所持金1千円で身を寄せた男性(41)は「このまま野垂れ死んでもいいかなと思った時もあったが、今ほど人の情けを感じたことはない」▼「切る」のをこらえる経営者もいる。新潟県妙高市で80人の土建業を営む岡田巌さん(61)。公共事業が減る中、エビの養殖や有機野菜づくりに乗り出した。「新たな挑戦といえば聞こえはいいが、仕事を作るためにもがいている。歯をくいしばって雇用を守らねば」▼05年の耐震強度偽装事件で取り壊された東京都稲城市のマンション。住民平均1700万円の追加負担で新住居が完成した。建て替え組合の理事長、赤司(あかし)俊一さん(41)は「みんなで勉強して建てたマイホーム。単なる購入者同士の付き合いではない、住民の輪が育った」▼「それまで火災現場に近づく市民は『消火の妨げ』だと思っていた。阪神大震災で助け合いの大切さが身にしみた」。神戸市消防音楽隊の山本将吾さん(41)は、小中学校などを「いのちのコンサート」で回る▼国内最年少、生後17日で生体肝移植を受けた仙台市の伊達香凜(かりん)ちゃんが年末に退院。肝臓の一部を娘に提供した父聖伸(きよのぶ)さん(33)がブログに感謝をつづる。「小さないのちをここまで支えてくるのに、どれだけの人の手と力がかかっていることかと、頭(こうべ)を垂れる気持ちになります」