ユーモア、倦怠、こどもニュース
何かユーモアのあるエントリーを書きたい気分だ。最近のお笑いではドランク・ドラゴンとかアンジャッシュとか友近とかが好きだけど、近頃どうもユーモアからは遠ざかっているような気がする。
今から思い返してみると、学部生の頃はユーモアのある作家ばかりを読んでいたような気がする。筒井康隆、阿刀田高、清水義範。それ以外のときは何をしていたかというと、黒服で走り回っていた。この黒服のお仕事、葬儀屋でもホストでもないのだが、ユーモアを持っていると便利で、「サイセキ」とか「ガクチュウ」(いずれも業界用語)というのをやるときに役立つのである。
五木寛之がおそらく今の感じで売れ出したのが学部3年か4年の頃で、フモールというのは「曳かれ者の小唄」だという指摘に感銘を受けたのを覚えている。割と隠れファンで『青春の門』も一気に読んだりしたこともあったのだが、宗教学の研究室でそんなことは言えない雰囲気だった。
それに、青春というのは教養主義の終焉とともに終わったことになっていることも知らなかった。それは院に進んで竹内洋や筒井清忠や三浦雅士を読んでから知った。だって、古い学生文化を集中的に体現しているようなところにいたんだもん。
では、学部のときに勉強は何をしていたのかと尋ねられると、していなかったから院で勉強しようと思ったんですというのが偽らざるところ。修養主義のメンタリティーで教養主義を研究したら教養がつくかなと思ったのが誤りで(いや、誤りではなかったかもしれないけど)、息の続かぬことになってしまい、20代半ばを越えてから迷いながらもフランス語を猛勉強。ところが日本で行なわれているポスコロ的なフランス批判の潮流にやや食傷し、これは西欧が輝いていた時代に日本語で書かれたものも読まなければ不公平だと思い、反動的に森有正と吉田健一を「戦後教養主義者」として読む。森有正は真面目な印象が強いけど、吉田健一のユーモアは一級品。
1990年代後半から2000年代初頭は、1930年代の時代状況に似ているなんてことが言われて、森、吉田世代が20代後半に味わったはずの「倦怠」というやつがやけに身近に感じられた。恐ろしさと人間の可能性を秘めた近代。それが19世紀研究の魅力だなんて思って、19世紀のライシテ研究で論文を書いた。だから、テーズの参考文献には掲げなかったけれど、テーズを書く私の精神を最も根本的なところで養ったのは吉田健一の『ヨオロッパの世紀末』かもしれない。
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テーズの隠れ参考文献が吉田健一だとしたら、今書こうとしているものの隠れ参考文献は池上彰だ。もと「週刊こどもニュース」のお父さん役で、最近はフリーランスとして活躍中だ。さまざまな地域の現代史についてわかりやすく理解できる本をいろいろ出している。
そうだったのか! 現代史 (そうだったのか! シリーズ) (集英社文庫)
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2008年秋の新学期。ケベックの小・中学校では新設科目の「倫理・宗教文化教育」が行なわれている。生徒はみな同じ教室で同じ授業を受けている。前年までは「宗教・道徳教育」の時間になると、生徒たちはそれぞれ「カトリック教育」、「プロテスタント教育」、「非宗派の教育」に分かれて授業を受けていたのだ。どうしてこのような変化が起こったのだろう。時計の針をぐんと戻して、1960年代にさかのぼってみよう。……
池上さんの情報収集のやり方だが、新聞記事についてはスクラップらしい。興味を抱いた記事が両面にあったら、近所のコンビニにまで走ってコピーを取るのだそうだ。今日の朝日の一面には、中国に渡航して臓器移植を受けた日本人の話があって、その裏にはブログ炎上の記事が載っていた。自分自身、移植で法に触れることもしていなければ、ブログも炎上にはいたっていないが、どちらの記事もひどく今の私の関心をひいた。けれどもすぐにコンビニに走るようなことはしなかった。このわずかな行動力の差が実は大きいんだろうなあ。
池上父さんは、子どもの反応にときに唖然としながらも、子どもとのやりとりを楽しんでいるようだ。
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「NHK週刊こどもニュース」のある日の編集会議でのこと。イスラエル軍がパレスチナ占領地から一部撤退を決めたニュースをどう表現するか、スタッフ一同、頭を抱えていました。「撤退」というむずかしい言葉はこどもが理解できないだろうと考え、どうわかりやすく言い換えるか苦心していたのです。年配のスタッフの意見で、「軍隊を立ちのかせることになりました」と表現することになりました。そして放送前日。「こどもニュース」の出演者のこどもたちを前に、私が原稿を読んで聞かせます。
「イスラエルは、軍隊を立ちのかせることになりました。これ、わかるかな?」
「わかんなーい」
「そうか。だったら、軍隊を引き上げることになりました、と言えば?」
「うん、それならわかる。撤退のことでしょ」