ブルースの魂もユーモアだ

 宗教人類学者の佐藤壮広さんが朝日の記事で取り上げられていた。リンクはこちら

流しの講師 非常勤ブルース
 
 大学など10校を掛け持ちし、年収は200万円ちょっと。東京都内に住む宗教人類学者、佐藤壮広(たけひろ)さん(41)は非常勤講師だ。その悲哀を「非常勤ブルース」という曲にした。教壇でギターを抱えて熱唱。学生にも自分の心を見つめた歌詞をつくってもらう。異色の授業が好評だ。

 沖縄の民間巫者(ふしゃ)ユタの研究が佐藤さんの専門。教えている私立大のほとんどで、契約は1年ごとの更新だ。「おつかれさまでした」のひと言もなく、メールで「来年度の任用予定はありません」と告げられたこともあった。

 事情を知らない学生がよく尋ねる。研究室は何号館ですか、と。そんなものはない。卑屈になりかけたが、これを歌にしようと開き直った。

 ♪先生いつも どこにいるんですか?/聞かれるたびに おれは答えるよ/おれはいつも お前らの目の前だ

 非常勤ブルース ひとコマなんぼのおれの生活!(※繰り返し)/アルプス1万尺/おれはひとつき3万弱(※)

 大教室では数百人の学生が山場のフレーズを叫ぶ。

 メッセージは「他者の痛みを聞く耳を持て」。ブルースは、アフリカ系米国人の間で生まれた音楽だ。佐藤さんは人々の重い歴史を語り、ブルースを実際に聴かせる。

 世間は高学歴ワーキングプアと呼ぶ。だけど、「パートタイムでも教育者としての誇りをもってやっているぞ、というところを見せたい」。

 授業では学生に、つらさや押し込めた気持ちを見つめさせる。シャウト(叫び)の種さがしだ。作品は、佐藤さんのギターに乗せて発表される。仲間の心情を分かち合うところに意味がある。

 立教大学の08年前期「授業評価アンケート」では、「授業に満足したか」との問いに「大いにそう思う」「そう思う」が計80%。「流しの非常勤講師」佐藤さんはギター持参の出前講座を開いている。連絡はメール(bluesato2005@yahoo.co.jp)で。(磯村健太郎

 佐藤さんは、私がフランスにとりあえず1年行こうと思っていた時期に、沖縄に2年間留学されていたころの話などを伺ったことがある。私は私で悩める時期で、あとから知ったのだが佐藤さんもそのころ大変なご経験をされていて、2人でつるんで町田宗鳳さん――彼は破天荒なのに地に足の着いた感のある不思議な方だ――のもとを訪ね、ワイルドなお話に励まされたことがある。

〈狂い〉と信仰―狂わなければ救われない (PHP新書 (081))

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 留学から帰ってきて島薗ゼミに参加したら、たまたま佐藤さんが「出張講座」に来られていて、この記事に紹介されているようなブルースをLIVEで聞いたこともある。哀しさを笑いに変える。それもひとつの知恵であり、生きる技だ。ゼミのあとの飲み会で「こんな世の中だから、これからブルース・ブーム来るかも」という話になったのを覚えている。
 ブルースは、今の社会構造をやんわりと否定する。ブルースは、痛烈な批判がかえって自分たちに不利にはたらくことを知っているからだ。いわゆるブルースの哀愁とは、諦念を経てなお希望を捨てない成熟のことだと私は思っている。
 記事を書いた磯村健太郎氏の本もついでに紹介しておこう。
<スピリチュアル>はなぜ流行るのか (PHP新書)

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