事業仕分けについて

 今回の事業仕分けで研究費が削られたことについて、もちろん関心を持って推移を見ていたが、そして疑問符をつけるということは大方の研究者とだいたい同じだと思うが、有効な反対運動のための声をあげるということは、ウェブ署名というのをはじめてしたという以外には特にしていない。そんな人間が、遅きに失したなどと評することはあまりにおこがましいが、「日本宗教学会」と「宗教と社会学会」(私はまだ後者の会員ではないが)が意見表明を行なっていることを知り、「哲学・思想系諸学会による行政刷新会議への意見表明」が出されたようなので、ぜひ載録しておきたい。

日本宗教学会会員各位

この度の行政刷新会議の「事業仕分け」において、若手研究者育成資金や研究推進のための競争的資金の大幅な削減を含む学術予算の縮減が求められました。これに対し、哲学・思想系の諸学会から急遽、意見表明を行うことになりました。これは日本宗教研究諸学会連合、日本哲学系諸学会連合、藝述学諸学会連合の連名で行い、声明は文科省パブリックコメント http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/sassin/1286925.htmに送るとともに、主要新聞社に送ります。また、参加諸学会のHPにも掲載することになります。
日本宗教学会としましても事態の重要性と緊急性に鑑み、常務理事各位の了承のもとに意見表明に参画することにいたしました。
会員各位におかれましては、以上のような状況をご賢察いただき、ご理解とご賛同をいただきたいと存じます。
なお本表明に関し、ご意見等ございましたら、学会事務局までお寄せいただければ幸いです。
2009年12月1日 会長 島薗進

「宗教と社会」学会による行政刷新会議への意見表明
 行政刷新会議事業仕分け」は、予算編成の透明化、行政から無駄をなくす画期的なやり方として国民から支持を得ているところであり、仕分け作業に従事された方々の努力に敬意を表するものであります。しかしながら、学術研究推進関連予算に関しては十分に論議が尽くされないまま、見直し・予算の縮減という決定がなされたと考えます。
 人文学・社会科学の諸領域から人間社会と宗教文化の関わりを研究する「宗教と社会」学会は、大学の基盤的経費と競争的研究資金、及び次世代育成支援の財政的拡充を政府に強く要請します。日本学術会議会長談話(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d5.pdf)に明確に示されているように、科学技術の振興は一朝一夕になるものではなく、基礎研究の積み重ねが重要であります。また、人文学・社会科学は人間社会の理解や文化の継承に大きな役割を果たし、国際理解や平和の構築に資するところが大であります。
 この度、第3作業部会において、若手研究者育成に関わる競争的資金(日本学術振興会特別研究員事業[事業番号3-21-(3)]、科学研究費補助金費若手研究(S)・(A)・(B)、特別研究員奨励費[事業番号3-21-(2)]、科学技術振興調整費によるテニュアトラック制支援[事業番号3-21-(1)]と女性研究者支援システム改革[事業番号3-39])の大幅な縮減が求められました。今後も科学技術振興費・文教予算に対して厳しい評価が続くものと予想されます。
 人文科学・社会科学の分野において、学術研究の成果はすぐに現れるものではありませんが、若手研究者への支援は将来への投資と見なせます。縮減の対象となった競争的資金の競争率は高いものであり、選抜された若手研究者は優れた中堅研究者に育ちました。このような成果を十分に評価することなく、リサーチアシスタントや特別研究員のポストを単なる生活補助の施策と見るような意見が会議の席上出されることに強い危惧を感じます。
 また、大学は国公立大学法人、私学を問わず、世界的に見ても高額な授業料を学部生・大学院生に負担してもらいながら教育改革と経営改善の努力を続けてきましたが、人件費・物件費の削減も限界に近いものがあります。今の大学には基盤的大学運営費の確保に加えて、ぎりぎりの学資負担にあえぐ家庭やアルバイトに追われる学生・大学院生のために、貸与型奨学金から給付型奨学金への転換など多くの施策が必要です。
 政府閣僚、民主党議員、及び文部科学省の各位におかれては、知的基盤社会において高等教育機関・研究機関が果たす役割と国際社会に対する日本の学術的貢献の重要性をご理解いただき、是非とも中・長期的視野に立って高等教育・学術研究推進のために財政的な支援を強化されるよう強く要望いたします。

平成21年11月27日

「宗教と社会」学会
会長 櫻井義秀

哲学・思想系諸学会による行政刷新会議への意見表明

平成21年12月1日

税収の大幅な減少が見込まれ、国家予算の適正な構成が望まれる中、行政刷新会議の「事業仕分け」が、予算編成のプロセスの透明化と実効性のある資源配分を目指し、多くの成果をあげていることに敬意を表します。しかしながら、大学での研究・教育に関する予算に関しては必ずしも的を射た論議が行われないままに、見直しや予算の縮減という決定がなされたと考えます。
私ども哲学・思想系の諸学問領域の諸学会は、大学をはじめとする高等教育や研究機関の基盤的経費と競争的研究資金、及び次世代育成支援の経費が縮減されることなく、むしろ拡充されるよう、政府に強く要請します。
哲学・思想系の学問・教育は、人類が蓄積した叡知を現代社会に生かし、さらに次世代以降の人々に継承していく責務を負うものであり、国民社会の基礎を形作る営みの欠くべからざる一翼を担っています。その存在意義は日本文化の底力の育成に関わり、表面には現れにくい地道な研究・教育活動の積み重ねによってこそ実現されていくものです。とりわけ、それがどのような効果をあげているかについては、長い時間的経過を視野に入れて、多元的な評価尺度を用いて見積もられねばなりません。
わが国が成し遂げた未曾有の発展は、基盤的な研究・教育への長期的な投資の成果に他ならず、現時点でこの投資を軽視することは、次世代の人材確保と将来の社会の発展に大きな損失をもたらしかねません。
以上のことを念頭に置きますとき、この度の「事業仕分け」において、若手研究者育成資金や研究推進のための競争的資金の大幅な縮減が求められましたことは深く憂慮される事柄です。大学や研究機関における研究・教育活動はこれらの資金によって支えられてきました。特に、わが国の学術振興関係予算はこれまで理工系のビッグサイエンスを中心に措置されてきたため、人文・社会科学系の財政事情は現在でもすでに危機的状態にあり、その上これらの資金が大幅に縮減されるとすれば、日本の哲学・思想系の研究・教育に甚大な打撃が加えられることになりかねません。
哲学・思想系の諸学問領域においては研究者の人材育成に長い時間を要します。大学院における研鑚が決定的に重要であることは言うまでもありませんが、大学院博士課程修了後もさらに広く深く力を養っていく必要があります。このことは世界的にも認識が深まっており、各国で博士課程修了後の研究者育成プログラムが充実されてきておりますが、日本の場合、その体制はようやく整い始めてきている段階です。
競争的研究資金につきましても若手をも含めた共同研究はこの間に次第に増加してきてようやく効果を上げ始めてきたところであり、それなくしては今後の質の高い研究・教育の継続は著しく困難となりましょう。近隣諸国と比べても、近い将来における哲学・思想系の諸学問領域における国際競争力の大幅な低下が懸念されます。
政府、国会議員、及び政策立案・予算案作成に関わる方々におかれましては、国民社会において哲学的・思想的な構想力がもつ意義を適切にご理解いただき、日本ならではの国際社会に対する学術的貢献がなされますよう、中・長期的視野に立って高等教育・学術研究推進のために財政的な支援を強化されるよう強く要望いたします。

日本哲学系諸学会連合代表  竹内整一                             
日本宗教研究諸学会連合代表 星野英紀
藝術学関連諸学会連合  西村清和


加盟諸学会

日本哲学系諸学会連合:
日本印度学仏教学会、日本宗教学会、日本中国学会、日本哲学会、美学会
日本倫理学

日本宗教研究諸学会連合:
印度学宗教学会、京都宗教哲学会、キリスト教史学会、「宗教と社会」学会、
宗教倫理学会、神道史学会、神道宗教学会、宗教哲学会、宗教法学会、
筑波大学哲学・思想学会、日本印度学仏教学会、日本オリエント学会
日本旧約学会、日本基督教学会、日本近代仏教史研究会、日本山岳修験学会、
日本宗教学会日本新約学会、日本道教学会、日本仏教綜合研究学会、
パーリ学仏教文化学会、佛教思想学会、佛教文化学会、豊山教学振興会

藝術学関連諸学会連合:
意匠学会、国際浮世絵学会、東北藝術文化学会、東洋音楽学会、日本映像学会、
日本演劇学会、日本音楽学会、日本デザイン学会、日本民俗音楽学会、
比較舞踊学会、美学会、美術科教育学会、美術史学会、舞踊学会、
広島芸術学会、服飾美学会