モントリオール雑記

 モントリオールに来ている。初めての街で、まだ着いたばかりだが、すでに結構気に入っている。
 心配していた気温は、耐えられなくて途方に暮れるほどではない。現地に着いたらすぐに本場の耐寒のもの(上着、帽子、靴)を揃えなければだめかと想像していたが、今のところ特に買わずにすんでいる。
 着いた夜は、マイナス7度。まあこれなら大丈夫と思えるくらい。週末冷え込むと聞いていて、外に出てみたらマイナス16度。「おお」と思いながら――だって冷凍庫のなかを自動車が走っているようなものなのだ――最初はこの程度かと思っていたが、帽子をかぶらずに少し歩くと、耳がちぎれそうに、頬が固まりそうになり、手袋を外してみると、あっという間に指先から冷えてくる。

 これはいけないと思ってホテルに戻り、ズボンの下穿きをはき、懐炉を忍ばせ、もう1枚セーターを重ね、帽子をかぶり、つまりは現時点でできる最強装備で外に出ると、まあ大丈夫。もっとも、日陰を歩いているときに風が吹いてきたりすると頬が痛いし、ずっとほっつき歩いていると体のほうから冷えてくる。そんなときは、店に入るか、地下鉄の駅を探り当てる。
 すると今度はプラスで20度かそれ以上ある。水色だった自分の体がオレンジになるような感覚だ。何度かそんなことを繰り返していると、肌が緩んでいるのだか突っ張っているのだか、よくわからなくなってくる。
 CEETUMの研究所はモントリオール大学の端にあって、ミロ先生のアドバイスにしたがい、すぐ近くのホテルを滞在先に選んだ。キチネット付ステュディオといった風情の部屋で、割と広々としている。家族と旅行とか、1泊や2泊とかいうのなら不適切かもしれないが、1週間以上の滞在で、学生気分を味わいながら研究目的というのなら、最適かもしれない。研究所には2、3分で着くし、ホテルの隣と向かいは学術書も揃えた本屋さんだ。スーパーマーケットも2つあるし(ひとつは「Metro」という名だが地下鉄ではない)、酒屋もあるし、軽く食事を取ることのできるカフェやレストランが軒を連ねている。
 通りの感じとしては、エスニック風というか、インターカルチュラル風で、たぶんもともとは場末だったのが、都市の発展のなかで飲み込まれていって、ダイナミズムを新たな魅力にしていった界隈だと思う。リールで言うと(といってわかってくれる人はそう多くはないと思うが)、ワゼムのイメージに近いかもしれない。
 今日は、政府刊行物と倫理・宗教文化教育の教科書を手に入れようと、Publications du Québec(通称éditeur officiel)とGuérinという本屋に行った。PQのほうはあいにく週末休みだったが、マギル(発音は「メギル」に近いようだ)のあたりのハイモダンな高層ビルと地下街に感心してしまった。私は専門家でもなんでもないが、都市計画としてかなりよくできたものではないだろうか。
 Guérinは、モン・ロワイヤルの駅から歩いて少しのところにある。店員さんに一番使われている教科書を聞くと、2社ほどあったが、そのうちのひとつを初等教育中等教育前半のものだけ買う。それから参考のために、3年前まで使われていたカトリックの宗教教科書も1冊加える。教科書は1冊3000円台から4000円台で、やや割高感がある。8冊を厳選。ううう、研究費を獲得したら、もっと買ってやる。レジに持っていくと、これは見本として使っているもので、他にストックがないから売れない、発注するから待ってほしいというのが1冊あったが、現地在住でないことを告げ、いろいろ交渉した末、見本用の現物を売ってもらった。
 そのあと近くの大衆食堂で、ミートパイとフェーヴ・オ・ラール(ベイクド・ビーンズ)を食べた。Fèves au lardは、実はブシャール=テイラー報告書にも出てくる。ラードを使っているからムスリムが食べられない云々といったことが、3年ほど前に社会問題になったものだ。どんなものか、食べてみなければわからないので、これも研究の一環(笑)。メープル入りのビール(はじめてだよこんなの)を飲みながら。

 地図を見ると、モントリオール公園を抜けるとホテルに帰れることがわかったので、縦断を敢行。重い教科書を抱えながら雪道の丘を越えたわけで、実際には想像よりも大変な運動だったが、とても気分がよかった。クロスカントリーを楽しむ人たちとすれ違いながら、丘を登っていくと、モントリオールの街並みが開けてくる。木の上のほうで音がすると思ったら、エゾリス(?)がいた。