グローバル化の時代こそフランス語を

 TV5が日本に上陸しそうだという記事を読んで驚き、そしてやはりちょっと嬉しくなった。
 日本人が現代世界をきちんと見ていくためには、英語ともうひとつの言語が必要だろうというのが数年前からの持論。英語コンプレックスの裏返しでもあるけれど(笑)。
 フランス語に肩入れしているのは、個人的な経歴もあるわけで、別に他の言語でもいいとは思うが、アメリカに恩義や憧れも感じつつ、批判的な視点もきちんと歴史的に培ってきた国の言語というのは、やはり魅力がある。
 カルフールみたいにならないで、マイナーでもいいから安定的に定着してほしいなあ。
 1月21日朝日新聞の記事より。

 フランス語の国際テレビ「TV5MONDE」(本社パリ)が、本格的な日本向け放送に乗り出した。映画やドキュメンタリー番組などの仏語コンテンツを、日本語字幕付きで放映している。英語全盛の今なぜ仏語なのか。需要はあるか。マリークリスティーヌ・サラゴス社長(49)に聞いた。

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 ――なぜ今、日本に焦点を当てたのですか。

 実はずっと以前から、日本での放送を検討していた。2003年から、英語の字幕をつけたアジア全域向けのチャンネルをネットや光ファイバー回線を通じて日本で流し、段階的に放送を拡大してきた。いまや日本の視聴者は35万に達している。

 フランスへの特別な関心を抱いている日本人は多い。その数は100万人に達すると見込んでいる。私たちは十分やっていけると判断した。

 ――日本では、仏語学習者の数は英語学習者にはるかに及びません。

 確かに、英語の広がりぶりは仏語と同列に論じられない。ただ、日本人は基本的に、英語でなく日本語でテレビを見たがっている。そのために、私たちは日本語字幕をつけることに決めた。

 ――字幕をつけると、仏語への関心が薄れませんか。

 日本人に日本語で番組を見てもらうことが基本だ。仏語圏の文化に関心を持ってもらえれば、あえて仏語でなくても構わない。実際、米国でTV5を契約している視聴者の57%は仏語が話せない。仏語を話すからといって必ずしもフランス大好きではないのと同様、フランス大好きであるために必ずしも仏語を話す必要はない。

 ――グローバル化で英語の力がますます強まるなか、仏語放送の将来は。

 かつてフランスが「文化的多様性」を訴えた時、誰からも相手にされなかった。しかし、国連教育科学文化機関(ユネスコ)総会で05年に文化多様性条約が採択され、この概念もすっかり一般的になった。英語による単一言語支配はすでに常識のレベルを超えている。19世紀の領土的植民地主義がやがて行き詰まったように、言語的植民地主義も早晩崩壊するだろう。

 そのとき反動として、時代錯誤のアイデンティティー優先主義が台頭する危険さえ感じられる。そうならないための中庸の道を探りたい。英語文化だけでない多様性が今ほど求められる時はない。(パリ=国末憲人)

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〈キーワード〉TV5MONDE 米CNNなどと並ぶ世界最大級のテレビネットワーク。フランス、カナダ、ベルギー、スイスの仏語圏の公共、国営放送11局のニュースや映画などを24時間放送する。これまで世界を8地域に分けて放送を展開。日本向けチャンネルは9番目で、09年から日本の生活時間に合わせた番組を編成。10番目の言語となる日本語での字幕も始めた。日本国内ではNTTの光ファイバー回線を使った「ひかりTV」やインターネットなどを通じて視聴できる。サラゴス社長は仏外務省文化協力部長などを経て、08年から現職。