『民主主義と宗教』

 このたび、トランスビュー社より、マルセル・ゴーシェ『民主主義と宗教』(伊達聖伸・藤田尚志訳)が刊行されました。

民主主義と宗教

民主主義と宗教

 これは、個人的には非常に思い入れの強い仕事であり、ここまでたどりつくことができて、感慨もひとしおです。
 実力者、藤田尚志さん(ベルクソン研究、近現代フランス哲学)を共訳者に得て、翻訳を開始したのが、2人がともに在仏中だった2005年のこと。政教分離法100周年の時期で、ライシテがアクチュアリティとしてもホットであり、歴史研究もぐっと進んでいた時期。私自身は、執筆中の博士論文を抱えながら、ゴーシェの原著に随所で共感しながら日本語にならずに頭がぐるぐるするという日々を過ごしていました。秋にはいわゆる郊外の「暴動」があり、2006年の春先には、反CPE運動がありました。そのときの若者らの主張が、政治に向けてのアピールではあっても、自分たちが政治を担おうとするものではなく、10年近くも前に書かれたゴーシェの本(原著の刊行は1998年)の診断が、実に的確という思いを味わったりもしました。
 刊行まで、ずいぶん時間がかかったことになりますが、日本で出るタイミングとしては、悪くないのではないかとも思います。今は、去年の政権交代で、民主党への期待、あるいは日本の民主主義への期待が高まったのが、ある程度落ち着いてきた時期と言ってよいかと思います。もちろん、日本の民主主義には、ここから頑張ってもらいたいですが、ゴーシェは、民主主義が現代、自らの理念を魅力として輝くこと自体が、そもそも困難であることを歴史的に分析しています。
 この本の宣伝はまたしようと思いますが、今回のエントリーで最後に触れておこうと思うのは、装丁がかっこいいということ。宗教からの脱出と宗教的なものの微かな残響を思わせるようでもあり、これからどうなるのか期待と不安を抱かせるようでもあります。帯が入ると、若干フランスの三色旗を思わせます。上下の画像では細かいところは見えにくいかもしれませんので、ぜひ現物を手にとってみて下さいませ(笑)。