スタジ委員会の「悲劇」を繰り返さないために

 アクチュアリティを「追う」には反応が遅すぎるが、フランスでは、1月末に下院の調査委員会が「ブルカ禁止」の提言を盛り込んだ報告書を提出した。
 あとでネット記事を紹介しようと思うが、日本のメディアでも話題になっている。
 2004年の法律は学校でのスカーフ/ヴェール着用の禁止、今度は公共の場でのブルカ(全身をすっぽり覆うヴェール)禁止ということで、ここから実際に法律が採択されるところまでいってしまうのかはわからないが、フランスは「厳格な政教分離」の国、「ライシテという特殊な概念に依拠している国」というイメージが、またフランス内外において強化されているところかもしれない。
 「もはや宗教の問題ではなく治安の問題だ」と述べている議員もいるようだが、数年前もそういう議論の立て方はあったように記憶している。
 ここでちょっと気になるのは、今回の提言がスタジ委員会の二の舞になってしまわないか、ということだ(そういうわけで今回のエントリーには少々大げさなタイトルをつけてしまった)。2003年12月にまとめられたスタジ委員会報告書は、たしかに公役務(service publique)におけるヴェール禁止を提言しているのだが、他方では、これからのありうべきライシテの姿を求めて、いろいろとオープンな提言をしていたのだ。それが2004年3月の法律では、「宗教的標章の禁止」という1点に集約されてしまった。
 今回の下院委員会の報告書(ジェラン報告書)は、問題解決のための9つの提言をしている。取り急ぎの訳をつけておこう。

PROPOSITION DE RÉSOLUTION
解決のための提言
L'Assemblée nationale,
国民議会は、
1. Considère qu'il est nécessaire de réaffirmer les valeurs républicaines de liberté, d'égalité et de fraternité qui fondent notre vivre-ensemble et qui s'opposent à toutes les formes d'intégrisme, de communautarisme et de sectarisme ;
1、自由・平等・博愛という共和国の価値を再度強調する必要があると考える。この価値は、われわれの共生のありかたを基礎づけるもので、あらゆる形式の原理主義共同体主義セクト主義に反対するものである。
2. Estime que ces valeurs fondatrices ont pour conséquence directe le refus de toute atteinte aux principes de mixité et d'égalité des sexes et l'obligation de protéger les personnes les plus vulnérables, en particulier les mineurs ;
2、この根幹をなす価値から次のことが直接的に導かれると考える。すなわち、男女共学と両性の平等の原理に抵触するあらゆるものを拒むこと。最も傷つきやすい人びと、とりわけ未成年の者を保護しなければならないということ。
3. Affirme que le port du voile intégral est contraire aux valeurs de la République ;
3、全身を覆うヴェールの着用は共和国の価値に反すると確言する。
4, Condamne les violences et les contraintes pesant sur les femmes et préconise le renforcement des mesures visant à promouvoir l'égalité entre femmes et hommes ;
4、女性に対する暴力と強制を非難し、両性の平等を促進する方策を強化するよう提言する。
5. Affirme le soutien de la France, qui à ce titre se doit d'être exemplaire, aux femmes victimes de violences et de discriminations de par le monde ;
5、この資格においてフランスが模範となり、世界で暴力や差別の犠牲となっている女性たちを支援することを主張する。
6. Apporte son soutien aux élus, aux associations et à tous ceux qui, combattent le port du voile intégral ;
6、全身を覆うヴェールに対して闘う議員、アソシエーションそしてすべての者を支持する。
7. Considère que la liberté de conscience ne peut s'exercer que dans le respect du principe de laïcité ;
7、良心の自由は、ライシテ原理の尊重においてのみ実践されうると考える。
8. Estime nécessaire de promouvoir une société ouverte et tolérante et de lutter contre toutes les discriminations;
8、開かれた寛容な社会を促進し、あらゆる差別に対して闘うことが必要だと考える。
9. Proclame que c'est toute la France qui dit non au voile intégrai et demande que cette pratique soit prohibée sur le territoire de la République.
9、フランス全体が全身を覆うヴェールにノンと言うことを宣言し、この実践が共和国の土地に置いて禁止されるよう求める。

 この9つの提言自体は、委員会のメンバー全体から支持された模様だ。
 しかし、ブルカを公共空間すべてで禁じるか、公役務や公共交通機関においてのみにするかについては意見が分かれた。
 全面的な禁止を求める人びとを主導しているのが、UMPのジャン=フランソワ・コペで、彼は2017年の大統領選挙に野心を燃やしているような人物だ。法律でブルカの禁止をするよう動いている。
 ジェラン報告書の提言が、スタジ報告書の二の舞になるとは、3や9に象徴される提言に「矮小化」された法律のみが制定されるような事態を指す。
 とりわけ外国のメディアが、どうしても「ブルカ禁止」のみに飛びついたような紹介の仕方になってしまうのが気がかりだ。

CNNの翻訳記事

イスラム女性のブルカ着用禁止、フランス議会が提言

パリ(CNN) フランス議会の委員会は26日、顔や全身を覆うイスラム教の女性の装束ブルカの着用禁止を提言したと発表した。
提案では学校、病院、公共交通機関といった公共の場、および公共サービスを利用する場合のブルカ着用を禁じると定めた。ただし路上でのブルカ着用は禁止の対象にはならない。一部議員は、顔全体を覆うブルカを着用した女性に対し罰金を科すことも提案していた。
ブルカの着用についてはサルコジ大統領が6月に「フランスでは歓迎しない」と言明。同国の下院に当たる国民議会が着用の是非を検討する委員会を設置し、憲法が定める政教分離の原則にブルカが抵触するかどうかを調べていた。
民間調査機関の統計によると、フランスには人口の約6%に当たる350万人のイスラム教徒がいるが、政府の推計ではブルカを着用している女性は2000人に満たないとされる。世論調査会社イプソスが最近実施した調査では、国民の57%がブルカ禁止に支持を表明していた。
欧州ではオランダ議会でも2005年にブルカ着用を禁止する法案が可決されたが、その後内閣が総辞職し法律制定には至らなかった。

以下は、共同通信の記事。

仏下院委、ブルカ全面禁止提言へ 26日に報告書、法制化も視野

 【パリ共同】イスラム教徒女性の全身を覆う衣装「ブルカ」着用の是非をめぐり、検討を続けてきたフランス国民議会(下院)の調査委員会が、公共の場所でのブルカ着用全面禁止を提言する見通しとなった。21日付フィガロ紙が報じた。
 同委員会は26日に報告書を公表する。報告書は、ブルカ禁止の法制化も視野に入れる見通しだが、法による禁止は、着用する女性を社会から疎外するだけとの反対も根強く、論議が広がりそうだ。イスラム諸国で「西欧によるイスラム教差別」との反発が広がる可能性もある。
 同紙に対し、調査委員会のジェラン委員長は「委員会内に法制化反対の声はない」としながらも「法案の内容ついては、慎重に審議する必要がある」と指摘。法制化の目的が抑圧された女性の解放である点を強調した。
 フランス国内には、与党国民運動連合(UMP)議員を中心に、公共空間でブルカを着用した女性に750ユーロ(約9万7千円)の罰金を科すとの法案を独自にまとめる動きがある一方で、国会での決議にとどめるべきだとの慎重論もある。

 以上からもわかるように、ブルカ禁止という面は取り上げられるが、「開かれた寛容な社会を促進し、あらゆる差別に対して闘う」ことを提言したということは、メディアはなかなか取り上げない。
 だからこそ、ここで紹介しておきたいのは、ライシテの専門家フィリップ・ポルティエが、「ラ・クロワ」紙のインタビューに対して、まさにこの「開かれた寛容な社会を促進し、あらゆる差別に対して闘う」という箇所に注目して評価している点だ。

 私はこの定式化に、新しいフランスのライシテの印を見る。私たちは、もはや振る舞いや意識を統合する論理ではなく、多様性を承認する論理のなかにいる。それ自体、人権が素描している枠組みを尊重するものだ。……伝統的な共和国モデルは、統合のモデルだった。新しモデルは、多様性と統合を関係づけるものになっている。

 委員会の提言がたんなる「反ブルカ法」に行きつくことのないよう期待したい。