〈私〉時代のデモクラシー

 宇野重規先生より、新著『〈私〉時代のデモクラシー』をご恵送いただきました。ありがとうございます。

〈私〉時代のデモクラシー (岩波新書)

〈私〉時代のデモクラシー (岩波新書)

 〈私〉は脱政治化した存在。そのような〈私〉をデモクラシーに結びつけるには、どうすればよいのか。
 「自分にしかるべきリスペクトが配分されていないという不満の偏在」(p.159)を乗り越えていくためには、「〈私〉の尊重」を「エゴイズムではなく他者の尊重へ」とつなげること。「他者や社会から自分が大切にされていると思えるからこそ、他者を尊重し社会を発展させていくのだと思える」ような倫理的な感覚を定着させていくことだと筆者は指摘します(p.163)。
 今日のデモクラシーは、希望を失ったように見えるかもしれない。しかし「デモクラシーへの希望の種」はあるのだと筆者は言います。

 〈私〉を排除した〈私たち〉にはグロテスクなものがありますが、〈私たち〉のない〈私〉は絶望にほかなりません。〈私〉から〈私たち〉へ、そのためのデモクラシーへの希望が、いま求められています。(p.194)

 語り口はやさしいですが、ものすごく複雑な数々の前提が踏まえられています。問題意識によって研ぎ澄まされた血肉化された知識というのはこういうのを言うのだなあと思います。