「おくりびと」と「分有」の思考
「おくりびと」がアカデミー賞外国語映画賞を受賞した。私自身はまだ観ていないが、死に立ち会う納棺師の仕事は、必ずや「分有」の思考を展開するジャン=リュック・ナンシーの哲学と響き合うはずだ。
〈と共に在る〉の様相を、ナンシーは他人の死に臨在するという体験に引きつけて語っている。誰もが知っているように、人は自分の死を体験することはできない。けれどもまた人に代わって死ぬこともできない。死は、死にゆく誰かに立ち会うことで、永遠に届かぬものとして体験されるだけだ。そのとき人は、死んでゆく人に同一化することによってではなく、死ぬのはけっして自分ではないという突き放されるような事実によって、自分の〈有限性〉に送り返される。死は目の前で死んでゆく人の〈有限性〉を画するだけでなく、その死に立ち会う者をも自身の〈有限性〉に送り返すのだ。
(西谷修「ワンダーランドからの声――「侵入者」の余白に」)
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