昼から牛タンパーティ

 さて先週末、久しぶりに5人ほど人を招いて、ちょっとした昼食パーティとなった。私たちは二人とも、人を招いてご飯をぱーっと振舞うのが結構好きなので、数日前からこの日のメニューは何にしようか?と話し合っていた。午前中に出かける用事があった私は、夫に、「メインはパエリアにしない?」と持ちかける。夫の料理はいつもお客さんから受けがいいし、あのパエリアはぜひまた食べたかったから。したら夫から驚きの提案。「牛タンはどうかな?」ぎえー!牛タン!確かに、近所のマッチ(スーパー)の臓物コーナーに、のったりと置いてあるのです、ラング・ドゥ・ブフ(牛の舌)あるいはラング・ドゥ・ヴォ(子牛の舌)。牛の舌切って丸めて発泡スチロールのケースに置いてラップをかけただけという、絶対に日本のスーパーではお目にかかれない代物。見た感じはかなりゲテモノ。ですが以前に一度だけ、やはり夫の希望で買ってみて、塩焼きとタンシチューにしたことがあり、おろすのは一苦労だったけどそれなりにおいしかったことがあったのです。私は、下準備の恐ろしさが上回って、もう一度絶対食べたい、とまでは思わなかったけど。丁度その時に読んでいた幸田文のエッセイでも、父露伴の好物なので、正月には絶対に用意しなくてはならないが、あればっかりは何回見てもなれない、と書かれていた、牛タン。わかるわかる、と思いながら、幸田文の気持ちでおろしたものだった。
 さて、パエリアか牛タンかは、当日の朝買い物に行ってみて決めようということになっていた。買い物担当は夫。なんとなーく、牛タンになりそうな予感がしていた。あれをおろすのはそれなりに覚悟がいるもので、気合を高めていたらしく、前の晩から、私は長いこと牛タンをおろす夢を見ていた。夢の中で一体いくつの牛タンの皮をむいたことだろう!朝起きたときには、予備練習は終わって、牛タンよいつでも来いという気持ちになっていた。さて、案の定夫が買ってきたのは、まあこれが、よくもこんなきれいなのがプロモーションで出てたこと、というびっくりするくらいの牛タン。一本で1700g、7人で美味しいところを食べて十分な量だろう。午前中でかける用事はキャンセルしていたので、早速下準備に取り掛かった。
 何が大変かというと、味蕾のぶつぶつざらざらした、灰白色の舌の皮を剥かなくてはならないのです。日本で牛タンを買うときには、大抵皮は剥いてあるらしいし、こちらのレシピを見ても、お店で剥いてもらって下さいと書いてある。最初はどうしたものかと思ったけれど、ウェブは便利なもので、牛タンの皮の剥き方、なんていうものもばっちりサイトが見つかった。そう簡単に剥けるものではなく、要するに削ぐ、というか剥ぐのです。舌の根元の方から、よく研いだ包丁で少しずつ皮を削いでいく。触っていると、段々にぬるぬるしてくるし、表面はざらざらだし、やっぱりあまり気持ちのいいものではありません。舌先の硬いところの皮は、1時間ほどゆでると手でも剥けるようになる。(ちなみに硬いところは煮込みやシチューに使います。)この皮を剥き終わった後の達成感といったら!あとは薄切りにするだけです。根元の方は、脂肪もきれいに程よく混じっていて、いかにも柔らかくおいしそう。こっちは普通に塩だけ振って、タン塩に。真ん中の赤みの多いあたりは、塩漬けにしたネギをまぶして、ネギ塩にしました。どちらも十分食べ応えのある量。上手に均等に薄切りにするのがとても肝心なのだけれど、そこはプロじゃないのでご勘弁といったところです。後は焼くだけ!終わったーっと思っていたところに看護婦さん到来。なんともばっちりなタイミング。でも今度は注射を打たれる心の準備が出来ていなかったので、ちょっと手間取らせてしまいました。
 今日のお客様はリールに来たばかりの日本人男性2名、バイト先の同僚2名とその連れのフランス人若者1名、という顔ぶれ。昼から牛タンはびっくりだろうな、と思いつつ。メニューは、サラダにきゅうりの梅かつお漬け、やはり牛タンのボイルでだしを取ったわかめスープ、タン塩・ねぎ塩タン、白米というシンプルなもの。あとは葛飾柴又の佃煮・雑魚煮少々と、同僚に買ってきてもらったビール(シティとヒューガルデンでした)にいちご。牛タンは、ちょっと硬いのもあったようですが、皆さん久しぶりというのもあって、おおむね好評だったようです。本当は、フライパンじゃなくて、ロースターとか鉄板とかが揃っていて、焼きたてをすぐに各自で食べられると、もっと美味しいんだろうなーとは思いつつ。おまけのデザートは、丁度実家から、8人前の白玉だんご準備セットが送ってきてあったので、それと主人の実家から送って頂いていた寒天を使って、簡単な和風パフェ。寒天・白玉・あんず(アブリコ・セックを戻したもの)にバニラアイスをのせて黒蜜をかけて食べました。黒蜜が久しぶりで、作った本人がひたすら感激。あーおいしかった。どうやら、我が家も含めて、皆さん晩ご飯必要なかった様子です。お腹の調子は大丈夫だったでしょうか。私はとにかく牛タンの像が、脳裏にこびりついてから離れるまで、この日を頂点に5日くらいかかったとです。(ふ)